ヒナタカの雑食系映画論 第169回

『岸辺露伴は動かない 懺悔室』3つの魅力。「短編」の原作を長編映画化するための“最適解”とは?

『岸辺露伴は動かない 懺悔室』の3つの魅力を解説しましょう! あらゆる面で実写映画化の「最適解」だと思えたのです。(画像出典:(C) LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社)

岸辺露伴
『岸辺露伴は動かない 懺悔室』  5月23日(金)ロードショー 配給:アスミック・エース (C) 2025『岸辺露伴は動かない 懺悔室』製作委員会 (C) LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
『岸辺露伴は動かない 懺悔室』が5月23日より公開中です。本作は荒木飛呂彦による漫画『ジョジョの奇妙な冒険』(集英社)のスピンオフ『岸辺露伴は動かない』の実写化シリーズの最新作で、劇場版としては2023年の『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』に続く第2弾となっています。
 
岸辺露伴は動かない
岸辺露伴は動かない
 
岸辺露伴 ルーヴルへ行く
岸辺露伴 ルーヴルへ行く

シリーズ初見でもOK。リスペクトと工夫に感服!

結論から申し上げれば、「ディ・モールトベネ(非常に良しッ)!」な映画でした。

人気を博したテレビドラマ版の魅力を引き継ぎつつ、今回は「邦画初イタリア・ヴェネツィア、オールロケ敢行」というバリューも加わり、スクリーンに美しい光景が映える劇場版としての見応えも存分。そして、「原作をこう再現し、こう変えたのか!」と、原作へのリスペクトと映画化での工夫に感服しました
岸辺露伴
(C) 2025『岸辺露伴は動かない 懺悔室』製作委員会 (C) LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
なお、今回だけで物語は独立しており、かつ主人公の「人を本として読むことができる特殊能力」をはじめとした設定の説明も十分にされるため、関連作品を見ていなくても問題なく楽しめます。一方、主人公の岸辺露伴という特異なキャラクターのことを原作漫画やテレビドラマ版で知っておくと、より“らしさ”に「ニヤニヤできる」ところもあるので、併せて見るのもおすすめです。
 
岸辺露伴は動かない 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)
岸辺露伴は動かない 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

注意点としては、G(全年齢)指定で直接的な残酷描写はほぼないものの、“精神的に来る”タイプの心理表現があることと、イタリア語に日本語字幕が映される場面もあるため、少なくとも漢字が読める年齢以上が推奨、というくらいでしょうか。それでも、後述するようにホッとひと息がつける場面もあり、重くなりすぎないバランスの作品にもなっています。
 

予備知識をほとんど必要としない、分かりやすい内容でもありますが、それでも『岸辺露伴』シリーズを知らない人、あるいは原作漫画の該当エピソードを読んだことがある人に向けて、ネタバレのない範囲で事前に知ってほしい魅力を3つに分けてまとめてみます。
 
映画ノベライズ 岸辺露伴は動かない 懺悔室 (集英社オレンジ文庫)
映画ノベライズ 岸辺露伴は動かない 懺悔室 (集英社オレンジ文庫)

1:「ポップコーン対決」を完全再現! 全身全霊で挑む大東駿介が素晴らしい

漫画『ジョジョの奇妙な冒険』、およびスピンオフ『岸辺露伴は動かない』シリーズの魅力として、その筆頭は「明確なロジックのある駆け引き」です。

バトルのはじめには「不可解な現象に巻き込まれる」不条理さや恐怖がある一方、その現象の「ルール」や戦いの相手の「能力」を把握した後に、「頭脳戦」や「一進一退の攻防」が展開するのです。
岸辺露伴
(C) 2025『岸辺露伴は動かない 懺悔室』製作委員会 (C) LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
今回の『懺悔室』で主人公・岸辺露伴が聞くことになるのは、ある男の告白と、その告白の中で「ポップコーンを外灯のランプより高く投げて、口でキャッチすることを3回連続で成功させる」試練です。劇中でも子どもの遊びそのもので「くだらない」と言われることですが、思わぬアクシデントや、成功させるための工夫もあり、ハラハラして見ることができるでしょう。

感服したのは、原作の「再現度」はもちろん、実写映像作品における「時間感覚」を意識したであろう「編集」です。原作は漫画作品であるので、ポップコーンを投げて落ちてくるまでの短い時間であっても、その間の「心理」を丹念に描くことが可能ですが、リアルな時間の流れがある実写映像で安易に再現してしまうと「なかなかポップコーンが落ちて来ないな」といった違和感を感じてしまう可能性もあったでしょう。
岸辺露伴
(C) 2025『岸辺露伴は動かない 懺悔室』製作委員会 (C) LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
しかし、本作はスローモーションを適宜使ってはいるものの、かなり細かいカット割りがされたおかげもあり、試練を強制される「焦り」や、急なアクシデントに対応しなければならない「スピーディーさ」もしっかりと感じられる、「実写映像作品ならでは」のサスペンスフルなシーンに仕上がっていたのです。

後述するように俳優全員が素晴らしいのですが、この試練に挑む大東駿介は今作のMVPではないでしょうか。ポップコーンに必死に「食らいつこう」とする、文字通りに全身全霊で挑んでいることがスクリーンから伝わってくるのです。
岸辺露伴
(C) 2025『岸辺露伴は動かない 懺悔室』製作委員会 (C) LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
実際に、渡辺一貴監督は台本にして約9ページ分にわたるこのポップコーン対決に、およそ150カットに及ぶ細かい撮影プランを練っていたそう。「ポップコーンがどのように跳ね上がり」「どう顔に落ちて転がっていくのか」といったイメージを、大東駿介と常にイメージを共有していったのだとか。

また、撮影時にポップコーンを実際に投げてはいるものの、その細かな挙動は後からCGとして足しているため、大東駿介は実質的に「見えないポップコーンを想像して芝居をしなければならない」状況だったのだそうです。

大東駿介がスタッフと共に本気で作り上げたポップコーン対決は、原作で読んでいた人はその再現ぶりに感動し、読んでいない人は新鮮で奇抜なバトルとして楽しめるはず。このシーンを取り上げるだけでも「100点満点の実写化」と断言できます。
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原作の「その後」を描いた物語
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