『岸辺露伴は動かない 懺悔室』3つの魅力。「短編」の原作を長編映画化するための“最適解”とは?
『岸辺露伴は動かない 懺悔室』の3つの魅力を解説しましょう! あらゆる面で実写映画化の「最適解」だと思えたのです。(画像出典:(C) LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社)
2:原作の「その後」を描いた物語
本作は実写化作品としては最新作ですが、原作の『懺悔室』は『岸辺露伴は動かない』シリーズの中では最初に描かれたもの——つまりは「原点」です。
そして、その原作は“全49ページ”という短編作品。そのまま2時間弱の映画作品にするのはあまりにもボリューム不足なため、どう映画化するかを不安に思った原作ファンは多いでしょうし、映画化における最大の課題でもあったでしょう。
(C) 2025『岸辺露伴は動かない 懺悔室』製作委員会 (C) LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
しかしながら、脚本を担当するのは『スーパー戦隊』シリーズのほか、数々のアニメで原作ファンからの信頼を得てきた小林靖子。同氏は『岸辺露伴は動かない』実写シリーズはもちろん、『ジョジョの奇妙な冒険』のアニメ版のシリーズ構成も手掛けていたため、
作品の理解度やリスペクト、物語の構成力も含めて「間違いない」人選です。今作も、さすがの実力で「やってくれて」いました。あらゆる面で「これが『懺悔室』の映画化の正解」と思える、素晴らしい脚色だったのです。
前述したポップコーン対決までは原作を忠実に再現しているともいえるのですが、その後は原作を既読の人にとっては「未知の領域」。ここを安易な展開にすると「蛇足」になってしまいそうなところを、原作の持つ精神性、特に
「幸せの絶頂のさなかに“絶望”を味わう呪い」という最重要の要素を「掘り下げて」いたのです。
(C) 2025『岸辺露伴は動かない 懺悔室』製作委員会 (C) LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
詳細を記すとネタバレになるので、なんとか確信部分を伏せつつ記すと、玉城ティナ演じる「マリア」というキャラクターがキーパーソンになっており、序盤に岸辺露伴と出会う時からメインの物語につながる「布石」をしておき、やがて彼女こそが「幸福になる呪い」への「対抗」を体現する存在となっていくのです。
その物語は、
原作で一種の「後味の悪さ」を残していた結末に対し、「アンサー」として解釈できるものでした。「幸福」が「襲ってくる」という、それだけを聞くと不可解な言動にも、新たな描写を加えたことによって大きな説得力を与えています。
(C) 2025『岸辺露伴は動かない 懺悔室』製作委員会 (C) LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
原作を読んでいた人にとっては「そうそう、『懺悔室』はこういう話なんだよ!」と膝を打つ思いになるでしょうし、知らずに見た人も
「人生の不条理さ」や「因果応報」を示した物語から、確実に「持ち帰る」ものがあるはずです。
さらには、ヴェネツィアという場所の「影の歴史」、有名なオペラ『リゴレット』など、メインの物語に絡まるそれぞれの要素には、「うまい!」と感嘆するばかり。物語の「背景」に至るまで、とことん考え抜いたからこその完成度といえるでしょう。
3:「仕事」にも向き合った作品だった
映画化に当たって掘り下げた部分が、岸辺露伴というキャラクターの“らしさ”とも密接に絡んでいるのが、今作の素晴らしさでもあります。
(C) 2025『岸辺露伴は動かない 懺悔室』製作委員会 (C) LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
例えば、岸辺露伴は『ジョジョの奇妙な冒険』の劇中で「この岸辺露伴が金やちやほやされるためにマンガを描いてると思っていたのかァーッ!! ぼくは『読んでもらうため』にマンガを描いている!『読んでもらうため』ただそれだけのためだ」と宣言するなど、漫画家という自身の仕事ついて、ストイックかつ(極端ではあるものの)確かな信念を持つキャラクターです。
そんな岸辺露伴は、今作で「幸福(幸運)になる呪い」を知り、かつ自身にもその呪いがかけられたことを確信すると、「ここまでナメられたのは久しぶりだ」とはっきりと怒りをあらわにします。
客観的には「幸福や幸運が連続するってうれしいじゃん」と思うところですが、その後に彼は、その幸運が漫画家である自分にとって、はっきり「屈辱」だと言うのです。
(C) 2025『岸辺露伴は動かない 懺悔室』製作委員会 (C) LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
これは普遍的な「仕事」についての寓話(ぐうわ)ともいえます。確かに、仕事において運に左右されることはあり、幸運に感謝することはあれど、
真に大切なのは「自分自身の努力や選択で仕事をしている」ことなのではないかと、岸辺露伴の言葉から思い知らされる構造になっているのです。それは、劇中で仮面職人として働くマリアにも、そして仕事をしている全ての人にも通ずることだと思えました。