ヒナタカの雑食系映画論 第172回

“恋愛にならない”男女の友情映画の決定版、『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』を見てほしい5つの理由

上映中の『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』が「恋愛にならない男女の友情映画」の決定版といえる、素晴らしい作品でした! LGBTQ+を描いた作品の「カウンター」ともいえる理由も含めて解説します。(※画像出典:(C) 2024 PLUS M ENTERTAINMENT AND SHOWBOX CORP. ALL RIGHTS RESERVED.)

ラブイン
『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』6月13日(金)全国ロードショー 日活、KDDI (C) 2024 PLUS M ENTERTAINMENT AND SHOWBOX CORP. ALL RIGHTS RESERVED.
6月13日より韓国映画『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』が公開中。同作は世界3大文学賞「国際ブッカー賞」や「ダブリン文学賞」にもノミネートされたベストセラー小説を原作としています。

前置き:こういう映画が見たかった!

結論から申し上げれば、「こういう映画が見たかった」という気持ちを満たし、「この作品を求めている人はもっとたくさんいるから、早く見に行って!」と願える、素晴らしい作品でした。

タイトルからは壮大な恋愛の物語を連想されるかもしれません(もちろん恋愛も描かれています)が、実際は「恋愛にならない男女の友情」を描いた映画の「決定版」であることを、何よりも推したいのです。

軽めの性的なセリフがごくわずかにあるものの、それ以外は見る人を選ばず、デートや友人との鑑賞にも推薦したくなる内容です。

かつ「ずっと心のどこかに置きたい格言」もあり、エンタメとして楽しむ以上に、たくさんの「エール」をもらえる内容でもあるのです。
 

これ以上の情報はなくてもいいくらいですが、なぜ本作が「必要」な作品であるのか、LGBTQ+を描いた作品の「カウンター」ともいえる理由も含めて、映画の魅力と共に紹介しましょう。

1:正反対の2人が親友になる話

本作の主人公は2人。他人の目を気にしない女性のジェヒと、ゲイであることを隠している青年のフンスです。大学生の時に2人は出会い、励まし合う親友になっていく過程において「あらゆる点で正反対なのにウマが合う」様が、実に面白く描かれています
 

例えばジェヒは、恋人のことを「ピュアなの、かわいいのよ」と自慢げに語るような、「恋に一直線かつ大っぴらに“のろける”」性格の持ち主。

一方でフンスは、「相手が“恋愛モード”だから、重くてさ」とどこか冷めた調子で語るような、「恋愛から距離を置こうとしている」タイプの人物です。
 

2人の価値観は大きく異なるにもかかわらず、むしろその違いがあるからこそ、「互いに気を遣わずに何でも本音で言い合える親友」として、理想的な関係に思えてきます。見る人それぞれが「自分もこうしたところがあるかもな」と、自身を重ね合わせて共感もできるでしょう。

2:「差別と偏見による抑圧」の対比となる、痛快無比で大胆な行動

そして、フンスのそうした価値観は、「ゲイであることを隠し続けた」境遇とも大きく関わっています。フンスの母親が息子のことをどう思っているのか、フンスが周りでヒソヒソと話される“うわさ”をどう感じているのか……。

差別と偏見の目にさらされ続け、「生きたくない」とまで思うようになった彼の苦しみが痛いほどに伝わりますし、それはジェヒとの(表向きは)軽妙でざっくばらんな会話の中にも表れています。
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例えば、フンスがジェヒに「隠れて付き合うなんてあやしい匂いがプンプンするぞ」と言うのも、自身がゲイであることをカミングアウトできないまま、隠れて男性と付き合ってきたこと、それが「あやしい」と周りにからかわれ、揶揄(やゆ)されてきた経験の「裏返し」なのだと想像できます。

そんなフンスにとって、恋愛に一直線で自由奔放なジェヒは、「自分にできなかったことができる」気持ちの良い存在として映っていると思えます。

特に、2人が親友になる一番のきっかけとなった、「SNSにアップされたヌード写真がジェヒではないかと騒がれた」ことに対し、ジェヒの「とある大胆な行動」は、周りからは「引かれる」ものであったとしても、フンスにとっては痛快無比そのものだったと分かるはずです。

また、ジェヒとフンスは互いに軽口も言い合える間柄なのですが、2人とも「明確に人を傷つける」言葉に対しては憤ります。例えば、ジェヒは飲み会でフンスに向けられた「ゲイみたいだぞ」という「軽率な蔑視と侮辱」に対しては、怒りをあらわにします。
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しかし、そのジェヒ自身もまた、とっさのこととはいえフンスを深く傷つける言動をしてしまうことも。フンスもまた、ジェヒがその時に必要だった「願い」に応えられなかったことで、彼女の信頼を大きく失ってしまいます。

時に間違いも犯しながらも、間違ったことにはちゃんと怒る2人。その「成長」と「真の相互理解」に至るまでの過程は感動的なものでした。
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「愛」や「排除」についての印象的な格言
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