3:ずっと覚えておきたい「愛」や「排除」についての格言
本作には恋愛に限らず、前向きに生きるヒントになる「格言」もあります。それは例えば、以下のようなジェヒのセリフです。「『会いたい』は『愛している』より真実味がある。『愛』は抽象的で難しいけど、『会いたい』は明確」
これらが劇中でセリフになっているだけではなく、2人の友情と人生の物語とも密接に絡んでいることも大きな見どころです。「異質なものを排除することで優越感を得ようとする。それって、本当は劣等感なのにね」
特に終盤では、これらのセリフの「裏打ち」とも言える展開があり、思わず拍手をしてしまうほどのカタルシスがありました。
4:必要なのはアイデンティティと生きる道
ジェヒ役のキム・ゴウンとフンス役のノ・サンヒョンは、今回の役を演じる上で最も気を遣った部分、または一番難しかった部分について、こう答えています(プレス資料より引用)。キム:ジェヒは恋愛に対して一生懸命な女性ですが、残念なのは、相手に自分を第一に思ってもらいたいという気持ちが強く、そのことで自分の価値を見出そうとするところです。彼女は、誰かに愛されていることを確認できれば安心するタイプの女性です。そんな彼女が最後には「誰かの一等賞ではなく、私が私として存在できる相手がいる」ということを理解します。この成長を表現することが、一番難しかった部分です。
これらの言葉の通り、ジェヒにとってもフンスも、共に必要なのは「自分は自分である」というアイデンティティと「自分らしく生きる」人生の進む道といえるのです。ノ:私は、フンスが持つ特徴や秘密、成長の過程について深く理解しようと努めました。彼が感じている孤独感や、幼い頃に感じた恥ずかしさ、抑えた感情が重要な要素だと思いました。(中略)序盤では、フンスは自分自身を信じられず、間違っているのではないかと感じ、過去に自殺を試みたことを回想するシーンもあります。彼を通じて愛について考え、自分を信じ、自分らしく生きようとする姿を繊細に演じることが私の目標でした
5:LGBTQ+を描いた作品の「カウンター」かもしれない
突然ですが、こうしたLGBTQ+を描く作品では、たびたび問題として語られることがあります。それは例えば、「当事者が最後に死んでしまう」作品が多いことです。【関連記事】LGBTQ+を描く日本映画の「現在地」。“まだここ”と感じる描写から「大げさではない表現」に向かうまで
個人的には、自死を選ぶほどの苦しみと生きづらさを描く作品からは「こうならないために何ができるか」を考えられますし、大切な人が期せずとして亡くなる作劇がされる作品も「その人に何ができたか」「どんな意志が残るのか」を描く意義があり、そのメッセージを必要とする人はいると思います。
そうだとしても、それだけが物語や映画の役割ではないと思えるのも事実。そして、この『ラブ・イン・ザ・ビッグシティ』はそうした「最後に死んでしまう」物語の「カウンター」とさえ思えるところもあるのです。
例えば、本作でもフンスの「生きたくない」気持ちがはっきりと表れていますが、ジェヒとの友情を通じて、生きる希望を得る過程が丹念に描かれています。
そして、ネタバレになるので詳細は控えますが、とある「ショッキングな事態」を思わせる展開と演出があるものの、その「先」には思いもよらぬ感動が待ち受けているのです。
ここは意図的に観客の心理を強く揺さぶっているため、賛否を呼ぶ描写かもしれません。とはいえ、当事者やその家族にとっては、それほどの不安定さや危うさを抱えている現実を描くこと自体に意味があると感じましたし、何よりもその一連のシーンが「誰かの気持ちに寄り添おうとする姿勢」の尊さを真っすぐに伝えていた点に、筆者は強く共感しています。
その上で、主人公2人の関係性は、やはりどこまでいっても「親友」であることが爽快で、「こういう関係や価値観の共有は現実にもあり得る」と感じさせてくれる点に、深い希望を覚えました。
この友情を描いてくれたことに対し、「ありがとう」という感謝を、告げておきたいのです。そして、改めて申し上げますが、本作が「届くべき人に届くこと」を、改めて願っています。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。



