魅力5:『国宝』と続けて見ると分かる、吉沢亮の「虚無」演技の素晴らしさ
『国宝』と『ババンババンバンバンパイア』の作風が全く異なるのは言うまでもないですが、実は吉沢亮が演じる役柄には、とある大きな共通点があります。それは「虚無」の印象があることと、文字通りに「血を欲している」ことです。『国宝』で吉沢亮が演じるのは、少年の頃に天涯孤独になるものの、その才能を見込まれ歌舞伎の世界に飛び込んだ青年です。彼は、横浜流星演じる歌舞伎の名門の跡取り息子と親友にしてライバル、いや、その言葉すらまとめきれない関係性を築いていきます。
また、同作では「日本一の歌舞伎役者」になるという目的のため、娘の目の前で「悪魔との契約」をも宣言するといった「狂気」を見せる描写があります。まったく「正しくない」タイプの主人公であり、歌舞伎役者というアイデンティティ以外は何も持っていない、まさに虚無ともいえる主人公を、吉沢亮はその一挙一動や、歌舞伎のパフォーマンスにより、体現していました。
そして、この『ババンババンバンバンパイア』での吉沢亮は、長い時を生きなければならないバンパイアだからこその虚しさを語るシーンがあります。「18歳童貞の血を狙う」という奇妙な目的や、心から愛しく思う少年との関わりも、彼の虚しい人生においては確かな希望だったのだと、笑顔の演技も込みで観客に訴えかけてくるのです。

さらに面白いのは、『国宝』で吉沢亮が横浜流星の“血筋”に嫉妬し、「お前の血をコップに入れてガブガブ飲みたいわ」とまで願う場面がありつつ、その後『ババンババンバンバンパイア』では、18歳童貞の血を狙うバンパイアを演じているという、奇妙な巡り合わせです。そんな共通点も含めて、ぜひ両作品とも楽しんでみてください。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。