世界を知れば日本が見える 第70回

なぜアメリカはイランを攻撃したのか。トランプ政権による軍事介入の真意、中東の今後は

イスラエルのイラン攻撃で始まった中東の衝突は、12日間で急展開を見せ、アメリカの軍事介入によって事態は一応の収束を迎えた。核開発をめぐる対立の末、各国は何を示し、何を得たのか。(サムネイル画像出典:Joshua Sukoff / Shutterstock.com)

ドナルド・トランプ
画像出典:Joshua Sukoff / Shutterstock.com
イスラエルがイランを攻撃したことで始まった「12日間戦争」が、米軍の介入で停戦に至った。
 
イスラエルがイランへの爆撃作戦「ライジング・ライオン作戦」を開始して、結局最後はアメリカがイランの核施設を破壊することで戦争はひとまず終結した。

日本も決して他人事ではない

今回は中東で起きた戦争ということで遠くでの出来事に感じている人もいるかもしれないが、イランのホルムズ海峡は、日本への原油輸入のタンカーの80%が通るために、閉鎖でもされたら甚大な影響が及ぶことから、決して他人事ではない。
 
この戦争は歴史にどのように記録されるのだろうか。筆者は、詳細が明らかになるにつれ、イランの核兵器開発計画が潰されただけでなく(少なくとも計画の再構築に何年もかかると見られている)、アメリカの実力を世界に見せつけることになったと見ている。
 
そこで、ここまで分かっていることから、“世界最強”と言われるアメリカの今回の動きを見ていきたいと思う。

「イランの核開発」を巡る、アメリカとイスラエルのこれまで

まず最初に、イランの核開発と、イスラエルとアメリカのこれまでのやりとりをできるだけ簡潔に見ていきたい。
 
最初にイランの核開発が世界的に公になったのは、2002年のことだ。同年8月にイランの反体制派組織であるNCRI(国民抵抗評議会)がワシントンD.C.で記者会見を開き、イラン政府が極秘に、イラン中部イスファハン州ナタンズで違法な核燃料施設を建設していると暴露した。
 
以降、イスラエルは、「地図からイスラエルを消す」と公言するイランの核兵器開発を潰すために、アメリカと動いてきた。
 
2010年頃には、アメリカがイスラエルと協力して行ったサイバー攻撃作戦「オリンピック・ゲームズ作戦」を実行。スタックスネットというマルウェア(不正なプログラム)を使い、イランのナタンズ核燃料施設のウラン濃縮工場をサイバー攻撃で爆発させ、破壊した。これが影響して、核開発が数年遅れることになったと後に報告されている。
 
それでも核開発を止めなかったイランだが、2015年にはイランの核開発計画を食い止めるために、イランと、国連安保障理事会の常任理事国である5カ国(中国、フランス、イギリス、アメリカ)とドイツで、イラン核合意(包括的共同作業事業=JCPOA)に至った。

これによって、イランのウラン濃縮活動を、すぐには兵器製造できない低濃度に期間限定(ウランの濃度を15年間下げ、ウラン濃縮の遠心分離機の数を10年間は3分の1にする)で制限することになった。
 
ところが、ドナルド・トランプ大統領(第一次)が2017年に就任すると、このイラン核合意を破棄。期間限定での規制では意味がないとし、さらに核兵器を載せる弾道ミサイルの製造も制限すべきとするなど、さらに厳しい規制の立場を主張した。
 
今回の戦争に先立ち、第二次トランプ政権はイランとの核交渉に踏み切り、2025年4月中旬には「60日以内に核兵器開発を停止する合意を結ぶように」とイランに要求した。しかし交渉はまとまらず、期限の翌日、61日目にあたる6月13日に、イスラエルがイランへの攻撃を開始した。なお、その前日である12日には、国際原子力機関(IAEA)の定例理事会で、イランが核不拡散義務に違反しているとして非難決議が採択されている。
 
こうして今回の衝突に至ったわけだ。
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アメリカが世界に見せつけた圧倒的な軍事力
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