アメリカが世界に見せつけた圧倒的な軍事力
今回はイスラエルの攻撃もさることながら、アメリカの軍事的存在感を改めて印象付ける結果にもなったと言える。アメリカによるイランへのこの精密攻撃は、コードネーム「ミッドナイト・ハンマー作戦」と名付けられている。任務には125機以上の航空機が参加し、その中にはアメリカ本土から発進した7機のステルス爆撃機B-2「スピリット」が含まれていた。目標到達までの18時間におよぶ飛行中、複数回の空中給油を受けている。
イラン時間の午前2時過ぎに、B-2爆撃機がナタンズの核燃料施設およびフォルドゥ核施設に向けて、「GBU-57」と呼ばれる「バンカーバスター(大規模貫通爆弾)」を14発投下した。
バンカーバスターは、1発で地中約60mにまで達して爆発する能力を持つ。
今回、合計13機のB-2爆撃機が同時にアメリカ・ミズーリ州のホワイトマン空軍基地から離陸。6機のB-2爆撃機は“おとり”として太平洋のグアム島へ派遣された。その一方、イランの地下核施設を標的とする7機の爆撃機は、探知を避けるためほとんど通信を行わず、静かに東に向かい、トップシークレットの任務を遂行したのである。
加えて米軍は、イランのイスファハン核施設に対し24発のトマホーク巡航ミサイルを発射している。
この任務に先立ち、イスラエル軍は約10日間かけて、ミサイル攻撃やドローン攻撃、サイバー攻撃でイランの防空能力を麻痺(まひ)させ、戦闘機の多くを爆撃などで破壊し、イランの軍用飛行場に甚大な被害を与えていた。
ロシア、中国、北朝鮮……イラク戦争時の衝撃が再来か
今回、特筆すべきなのは「GBU-57」の実戦投入だろう。初めて実戦で使用され、米軍はその威力を映像とともに世界に見せつけた。とりわけ、アメリカと対立する中国や北朝鮮、ロシアといった国々は、この攻撃を必死で情報分析しているに違いない。そもそも、以前に中国やロシアが自分たちの軍備を「時代遅れ」になっていると気付いたきっかけは、2003年から始まったアメリカによるイラク戦争だった。2011年まで続いたこの戦争では、米軍が高度にデジタル化された最新の兵器や装備を駆使し、イラクに武器支援をしていたロシアや中国の軍事力との間に大きな技術格差があることを浮き彫りにした。
今回のイラン核施設への攻撃は、当時と同じような衝撃を中国やロシア、そして北朝鮮に与えている可能性がある。バンカーバスターは言うまでもないが、実は米軍はこれまでにも「ニトロ・ゼウス」といったサイバー攻撃によってイランの防空網などを無力化する爆撃作戦のシミュレーションを重ねており、今回のイラン攻撃にはそうした作戦の蓄積が生かされたと言える。
イランの各施設で、15年間ものスパイ活動。中東の今後は?
さらに、今回の攻撃の後、アメリカの大手メディアなどが情報機関からのリーク情報として、「イランの核施設は大したダメージを受けていない」「そもそもイランは核兵器開発をしていた証拠はない」と報道したことで、トランプ政権の作戦を批判する声が出ていた。そのため、米軍は出来る限り詳細な情報を記者会見で公開することになった。中でも印象的だったのは、イランのフォルドゥ核施設に複数のスパイが15年間も潜入して情報を収集し、その情報をもとに今回使用されたバンカーバスターが開発されたという点だ。アメリカのCIA(中央情報局)や、イスラエルのモサド(諜報特務庁)などが長年にわたって水面下で危険なスパイ活動をしていたと考えると、その労力には驚かされる。
イスラエルも、イランでナタンツ核燃料施設が本格稼働し始めた2007年頃からこれまで、モサドがイラン国内で核開発に関与する科学者などを何人も暗殺してきた。今回の戦争でも大物科学者を2人殺害している。
イランにはもはや戦意は残っていない。これから中東が少しでも安全になるとすれば、アメリカの今回の動きは評価されるべきだろう。
この記事の筆者:山田 敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。
X(旧Twitter): @yamadajour、公式YouTube「スパイチャンネル」
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。
X(旧Twitter): @yamadajour、公式YouTube「スパイチャンネル」