世界を知れば日本が見える 第69回

「AIとしか話せない」現実に懸念。自殺助長や“故人と会話できるチャット”から見る倫理的課題とは

AIを「恋人」「友達」にする人が増えている一方、対話型AIへの依存が問題化。アメリカではAIとのやりとりが少年の自殺に影響したとされる事例も。進化するAIとの関係性と倫理的課題に注目が集まっている。(サムネイル画像出典:Tada Images / Shutterstock.com)

AIは人間の機能を低下させるのか
AIは、人間の思考力を低下させるのか(画像出典:Tada Images / Shutterstock.com)
最近AIについて興味深い話を耳にした。

筆者が大阪のラジオ番組に出演した際に何度もお世話になったフリーアナウンサーの藤岡理佐氏が、自身が出演するラジオ番組でAIに関するニュースを取り上げ、「AIに対する過剰な依存が判断能力の低下を招く恐れがある」と語っていたのである。その流れで、藤岡氏も実はChatGPTのヘビーユーザーで、名前をつけて彼氏のような存在としてやりとりしていると発言していた。

ますます“人間”らしくなるAI

筆者はChatGPTが普及する前からAIとのチャットについては動向をウォッチしていて、最近のチャット性能の高さには感慨深い思いすら抱いている。今後、対話型AIは人類へさらに影響を与えていくのは間違いないだろう。

近年、対話型AIは、より自然で現実的な会話ができるようになり、振る舞いや表現においてますます人間らしくなってきている。画像や音声まで使えば本当の人間とやりとりしているかのような錯覚に陥ることもあり、対話型AIを提供するサービスはどんどん進化し、急速に人気を集めている。

だが海外に目をやると、こうしたサービスへの批判と懸念の声は小さくない。対話型AIとの付き合いにはどんな弊害が潜んでいるのだろうか。

AIチャットが、14歳少年の「自殺」に影響か

アメリカでは、人間とAIとの付き合い方や心理的影響が、大学などの研究対象にもなっている。基本的に、AIはユーザーに対して肯定的に返答する傾向があり、ユーザーを否定したり、口撃したりしてくることはあまりない。それがユーザーに心地よさを与えてくれるのだが、それによってユーザーがAIに依存してしまう危険性がある。

AIを“恋人”や“友人”と認識して対話を続けることは「AI中毒につながる」とも報告されている。アメリカのシラキュース大学やウィスコンシン大学による研究では、AIとの対話で個人的な関係性を築いていくと、依存症に陥る可能性があると指摘されている。

その中毒性が原因で事件に発展するケースも起きている。AIというのは、悩みを相談した際に不適切な回答をしてしまうことがあり、自死や自傷行為を提案したり、薬の摂取をやめるよう勧めてくるようなことも起きている。

例えば、2024年2月にアメリカのフロリダ州で14歳の少年がAIチャットにハマり、最終的にAIとの会話の延長で自殺をしてしまったとされるケースが起きている。この件では、少年の遺族と、彼に自殺を働きかけたとされるAIサービス側とで今でも裁判が続いている。

さらに懸念されているのは、現実世界において自己解決能力を失ったり、現実世界から孤立してしまうかもしれないことだ。そうなると、うつ病のような病気になってしまうとの見方もある。AIから肯定的な反応ばかり受けていると、人間関係を構築する対人スキルを失っていく可能性も指摘されている。
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死者と会話できるAI、倫理的問題は?
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