世界を知れば日本が見える 第69回

「AIとしか話せない」現実に懸念。自殺助長や“故人と会話できるチャット”から見る倫理的課題とは

AIを「恋人」「友達」にする人が増えている一方、対話型AIへの依存が問題化。アメリカではAIとのやりとりが少年の自殺に影響したとされる事例も。進化するAIとの関係性と倫理的課題に注目が集まっている。(サムネイル画像出典:Tada Images / Shutterstock.com)

ChatGPTとの会話、「音声モード」の方が依存度が低い?

そもそもAIそのものに依存することは、人間の機能を低下させるとも言われている。2024年に心理学研究誌「Frontiers in Psychology」に掲載された「人工知能チャットボットが認知機能の健康に与える影響についての考察:ツールから脅威へ」という研究では、対話型AIによって、人の批判的思考、問題解決能力、さらに創造性の低下にもつながる可能性があると指摘されている。

2025年3月には、ChatGPTを提供するOpenAI社と、マサチューセッツ工科大学の共同で、ChatGPT上での会話データ約4000万件を解析する研究が公開された。

それによれば、「ChatGPTの使用頻度が日常的に高いと、孤独感、依存度、問題のある使用の増加、および社会との関与の低下につながるようだ。感情的な愛着傾向が強い人ほど孤独感が大きく、ChatGPTへの信頼度が高い人ほど感情的な依存度が高いことが明らかになった」という。

ただし興味深いのは、ChatGPTとのやりとりを音声モードで行った場合、依存などの影響はそれほど深刻ではなかったという。テキストでのやりとりが依存度を高めるらしい。また、プライベートな話題を議論すると短期的には孤独感につながる傾向があった。ChatGPTと一般的な話題について対話するほうが、感情的な依存度を高める傾向にあると言える。

AIを“故人そっくり”に設定。死者との会話、倫理的問題は?

筆者が対話型AIの活用で特に注目しているのは、死者との対話ができるAIだ。例えば、存命の家族とのチャットやLINEの対話、さらに電子メールなどのやりとりがかなり蓄積されている人も多いだろう。そして、もしその家族が亡くなった場合、それまで蓄積されてきた対話をAIに読み込ませて傾向や癖を学ばせれば、あたかもその家族が生きているかのように対話ができてしまう。

アメリカで故人と対話できるサービスはすでに普及している。よく知られているのは「Project December」や「HereAfter AI」といったサービスだ。アプリを使って、故人の情報を学ばせれば、亡くなった人と対話ができるというものである。朝に「おはよう」と問いかければ、故人が生きているかのように本人らしい返事をしてくれる。「昼は何を食べたい?」と聞けば、生前のようにいつも通りの返答をする。あたかも生きているかのような感覚になる、というものだ。

そしてAIの進化で、今では画像や動画、音声も故人そっくりに作ることもできる。要は、故人とテレビ電話がいつまでもできてしまうのである。

ただ死者との対話ができるという場合、倫理的な問題が生じると指摘されている。例えば、死を受け入れないために人生で先に進めなくなり、人類の営みを歪める可能性がある。

故人のプライバシーの問題もある。実際にカリフォルニア州では2024年に、生前の故人の同意なく故人をAIでよみがえらせることを禁じる法律が成立しているくらいだ。

こうした話を見ていると、AIはビジネスなどで効率化を進めるだけでなく、そう遠くない将来にAIが私たちの生き方や死生観などを変えていく可能性もあると感じられる。ただ、それにはきちんとした対策や規制も必要になるだろう。直ちにその議論を始めないと、人の在り方を変えてしまうような取り返しのつかない事態が起きる可能性もあるのだ。
 
この記事の筆者:山田 敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。

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