ヒナタカの雑食系映画論 第131回

酷評を浴びたドラマの映画版『アクマゲーム』に「悪くない」感想が上がるワケ

厳しい評判と視聴率となったドラマ版『アクマゲーム』の問題と、上映中の映画版には好意的な評価が寄せられている理由などをまとめます。そこには、今後の漫画の実写化作品が反面教師にするべきポイントがたくさんあったのです。(※サムネイル画像は筆者撮影)

原作の改変そのものが問題ではない

前述したようにドラマ版を初めは楽しく見ていたはずのメーブ先生も、次第に厳しい意見を投稿するようになり、「一度情報をしっかり整理してほしい。漫画と設定を変えてもいいんだけど、それで矛盾が発生して、その矛盾がキャラの心情すらも分からなくさせてしまっている気がします」とはっきり批判をしています。全くその通りで、問題は「原作を改変したこと」そのものではないのです。

なぜこんなことになってしまったのか。どうしたって推測の域は出ませんが、「作り手同士の連携がうまく取れていないのではないか?」と思わせるところがあります。例えば第7話では、見た目では麻雀のような「手牌」に見えるものが「手玉」と呼ばれており、おそらくは美術の都合上で名前を変えるべきところがそのままになっており、こちらもまたメーブ先生が指摘しています

脚本の段階から問題があったことももちろん考えられますが、ドラマ化の発表時には「脚本家と監督と1年以上かけて脚本を練り上げた」ことも記されていますし、脚本の問題だけでここまでの整合性に欠けた内容になるとは、さすがに考えづらいのです。原作から改変したことでの未整理の情報や矛盾について、脚本会議や撮影現場で「これはおかしい」と問題点を指摘する人がいなかったのではないか、はたまた指摘されてもそのまま進めてしまったのではないか。そのような背景が作品そのものから想像できてしまいます。

なお、メーブ先生は、Xのポストの批判が視聴者からの「『セクシー田中さん』の件から何も学んでない」という憶測も含めて記事化され、その他にもネガティブキャンペーン的な動画が拡散されたことについて「僕は過去のポストで、『セクシー田中さんの件や芦原先生について、憶測で私見を述べることはしません』と明言してます」「そんな人間のポストを利用して、当の漫画やドラマも確認することなく、セクシー田中さんの件に絡めて『時事ニュース』と称して動画をつくる。倫理観どうなっとるんや?」などと、「炎上させようとする」姿勢そのものを批判しています

これもまたその通りで、メーブ先生はドラマ化について「全部お任せした結果、よいものが出来たかどうかは視聴してくれた方の評価で決まるのかなと思います。そのときは僕もただのいち視聴者です」と投稿したこともあります。

『アクマゲーム』の企画は『セクシー田中さん』の問題発覚より前に進行していましたし、原作からの改変で脚本家と原作者の衝突があり、さらに最悪の結果を招いた『セクシー田中さん』とはまた別種の問題であることは明白なのです。

批判を浴びたドラマ版、それでもいいところはあった

ここまで問題点を記してきましたが、もちろんドラマ版にはいいところもたくさんありました。実写化をする際に一番のハードルの高さとなる「悪魔」のVFXはハイクオリティーでしたし、豪華声優陣の演技もあって悪魔それぞれのクセの強さも含めて印象に残ります。オリジナル要素の解説役として「おろち」というかわいいAIのサブキャラター(声は人気声優の花澤香菜)を据えていたのもよかったです。
 

ドラマとしての演出は「特撮もの」のようなケレン味があり、役者陣の極端な演技演出も含めて賛否を呼んでいましたが、個人的には漫画らしい極端さが作品にマッチしていたと思います。特にギャンブラーの「上杉潜夜」役の竜星涼は、いい意味で時にイラっとする言動も含めて原作の印象そのままの好演でした。

 

また、ドラマ版の第4話はゲーム内容は原作漫画にほぼ忠実で、対戦相手の「長久手洋一」役の桐山漣の熱演や、仲間となる田中樹演じる「斉藤初」のサブエピソードも感情移入しやすく、しっかりしたクオリティーのものになっていました。メーブ先生もこの回は楽しめたと感想を投稿しています。
 

映画では現実を見据えた志の高さも

その上で、筆者個人は今回の『劇場版 ACMA:GAME(アクマゲーム) 最後の鍵』をとても楽しめました。状況がどんどん悪くなり、悲壮感と絶望感が強くなっていっても、主人公と仲間たちが諦めない流れには引き込まれますし、原作ファンとしては「あり得たかもしれないifのラスト」を見届けたような感慨があったのです。

やや無理のある、強引な展開もありますが、ゲームそのものがテンポよく展開することもあってドラマ版よりも気になりませんでした。何より、とある「能力」の解釈が、人間そのものへの希望のメッセージにつなげる様には、なかなかの感動があったのです。
 
また、岩崎広樹プロデューサーは、WEBザテレビジョンのインタビューにて、佐藤東弥監督とこの作品で何を描きたいか、という話をした時に、「今このタイミングで実写化するなら人間同士の争いをどうしたら止められるだろうかということもドラマの要素として描きたい」という話が上がったことを告げています。

実際に今回の映画では、「ウクライナやイスラエルの情勢、世界中で絶えず争いが起こり続ける現実」を踏まえ、人間としての希望を提示するという、志(こころざし)の高さが表れていました。

結果としてドラマおよび映画『アクマゲーム』は商業的に失敗したプロジェクトであることは認めざるを得ないですし、前述してきた作品上の問題もとても大きなものですが、作り手には間違いなく熱意があったこと、いいところもたくさんあったのも事実です。何より、ドラマ版の散々な評価からすれば、映画は有終の美を飾る……とまでは言わなくても、その完結編および、一つの娯楽作品として求められるクオリティーを十分にクリアしていたことは称賛したいのです。

何より、このドラマおよび映画『アクマゲーム』の反省を生かして、これから先に良き実写化作品が生まれることを、何よりも期待しています。

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
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