常に半歩先を進むからこそ無縁だった「ブーム」と代わりに得た「永遠性」
ゆりこ:ライブ映像の合間に、キーさん、ミンホさん、テミンさんが過去のグッズやファンレターを見ながら、当時のことを語るインタビューの様子が入るのですが、そこもかなり見どころです。個人的に衝撃を受けた発言もあったんですよ。「おお、ここまで言うか」という。
矢野:それはどんな内容だったんですか? 結構踏み込んだことを言っていたんでしょうか。
ゆりこ:かいつまんで言うと「ある曲はちょっと早すぎた(時代を先取りしすぎた)」「(振り返ってみて)もっと積極的に活動していたら未来が違っていたかも……と思うタイミングがある」というような内容です。あくまで私の受け止め方なのですが、暗にSHINeeがこれまでのキャリアで「大ブーム」を起こしたり「時代の主役」になったりする時代がなかった、ということを示唆しているのではないかと。
矢野:本人たちもそう感じているのでは? と思わせる言葉だったのですね。時代のトレンドに乗る、マッチするためには戦略として「合わせにいく」部分もあるじゃないですか。SHINeeはメンバー自身もファンも認めるように、そういうことをするグループではなかった。
ゆりこ:はい。確かに「ある時代を代表する」「王座に君臨する」存在ではなかったかもしれないけれど、独自のスタイルを貫きながらもカムバック(新曲発表)のたびにあらゆるチャートの1位を獲得し、話題にもなってきました。現に韓国の音楽番組で70回以上も1位に輝いている。独自性と話題性を両立して結果を出し続けるのは至難の業だと思いますよ。
矢野:常に保証のない挑戦を続けて来たということですよね。メンバーの葛藤とプレッシャーも相当なものだったのでしょう。
ゆりこ:さらに思い返してみると、SHINeeはSMエンターテインメント(以下、SM)社内でも若干不遇な時期もあったように感じます。東方神起、EXOは「誰もが認める王者」だった時代があり、会社としてはそちらに注力せざるを得なかったのでしょうし、個々がタレントとしての才がありすぎるSUPER JUNIORとも売り方が違ってくる。私は他グループのファンでもあったので、EXOの飛躍を喜びながらも、シャヲルとしてはモヤモヤすることもありました。
矢野:会社としての「イチオシ」が誰なのかというのは、案外ファンにも透けて見えるものですしね。そこにまさかのジョンヒョンさんの急死。メインボーカルを失うということは、普通に考えるとグループにとって致命傷だと思うのですが……。
ゆりこ:ニュースを聞いた瞬間、どこで何をしていたか今でも鮮明に覚えています。そのぐらいショックでした。ジョンヒョンさんの歌声はQUEENのフレディ・マーキュリーのように「グループを象徴する声」。正直グループを続けられるのか? そんな心配もしました。しかし、結果的に他のメンバーがそれぞれの声とパフォーマンスを磨いて、パワーアップすることでグループ存続を可能にしたんです。
矢野:元々オンユさんの歌唱力も素晴らしかったですしね。あと、過去の映像をさかのぼって見ていると、年々歌がうまくなるテミンさんに気付きます。
ゆりこ:テミンさんの恐るべし伸びしろね。まさかあんなに歌えるようになるなんて、と今でも思っています。キーさんもミンホさんも今ではソロでも戦えるアーティスト。つまり、残りのメンバーが力を合わせて“アダム・ランバート”の役割を担った。
矢野:時流に合わせずに先を走って来て「大ブーム」になった時期がないからこそ、そして悲劇を乗り越えて尋常ではない進化と成長を遂げたからこそ、SHINeeは2024年も現役で古びない“今のアーティスト”として残っているのではないでしょうか。
ゆりこ:今回SHINeeの話をしながら、ある著名な方がインタビューで「気を付けていることは?」という質問を受けて「ブームを起こさないこと」と答えていたのを思い出しました。“流行りモノ”にはならないことで、長く愛される。
矢野:ブームや流行りを作って物を売るのは資本主義社会の正攻法だとも思いますし、今でも各社が“バズらせる”ことに躍起になっています。一方で、長く愛されるものは軸が“誠実”と言いますが、常に改良してパワーアップして、お客さんと実直に向き合ってきたサービスだったりします。SHINeeもそういう音楽、パフォーマンスを届けてきたグループですよね。
ゆりこ:昔の曲を聞けばさすがに当時を思い起こしたりもするけれど、ライブで目にするパフォーマンスには懐かしさをみじんも感じない。これはキャリアの長いグループでは相当珍しいことです。先日の東京ドーム公演を見て実感しました。