9:『犬王』(2022年)
実在の能楽師・犬王をモデルにした古川日出男の小説のアニメ映画化作品ながら、大胆にも映画『ボヘミアン・ラプソディ』などを連想する「ロック・ミュージカル」に仕上げた作品です。『マインド・ゲーム』や『四畳半神話大系』などで知られる湯浅政明監督による「ドラッギー」な表現は、ライブシーンとの相性も抜群でした。手塚治虫の作品『どろろ』にも似た「正反対のようで似たところもある男2人のバディもの」でもあり、現在もまだまだ公開中の『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』が好きな人もきっと気に入るでしょう。2人の主人公をそれぞれ演じた、アヴちゃんと森山未來による見事な歌に聴き入ってほしいです。
10:『アイの歌声を聴かせて』(2021年)
通常のミュージカル映画で「公衆の面前で」いきなり歌い出すのは、劇中のキャラクターも、映画を見る側も「そういうもの」だと受け入れていますが、この『アイの歌声を聴かせて』は違います。転校生としてやってきた女子高生AIがまさに「いきなり歌い出す」様に周囲が戸惑い、その様がクスクス笑えるコメディーや、かけがえのない青春物語にも昇華されるという、「ミュージカルの違和感や拒否反応」を逆手に取ったような特徴があるのです。実はディズニー映画にもリスペクトを捧げている作品でもあり、「西城」というキャラクターは『ノートルダムの鐘』の悪役・フロローも連想させます。ミュージカルの意義と可能性を、AIという今日的なモチーフと共に見事に打ち立てた、この世のありとあらゆる音楽映画の中で最もエポックメイキングな大傑作だと断言します。斬新すぎる「ジャズ柔道」のミュージカルも必見ですよ。
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ほかにもおすすめのミュージカル映画
そのほかの最近のミュージカル映画のおすすめ4作品も簡単に記しておきましょう。『イン・ザ・ハイツ』(2021年)……大停電の夜に4人の若者の運命が大きく動き出す様を描く物語
『ことりのロビン』(2021年)……Netflix配信の短編アニメ。ネズミの家族に育てられたコマドリが「自分が本物の良いネズミ」だと証明しようとする物語
『魔法にかけられて2』(2022年)……15年ぶりの続編となるDisney+配信作品でティーンエージャーの娘と向き合うドラマも見どころ
『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』(2022年)……第95回アカデミー賞長編アニメ映画賞受賞作で、原作からの大胆なアレンジも。
おまけ:ライブ映画の金字塔が4Kレストア版でリバイバル!
さらに、アメリカのロックバンド「トーキング・ヘッズ」が1983年に行った伝説のライブを記録したドキュメンタリー映画『ストップ・メイキング・センス』が、2024年2月2日よりリバイバル上映中です。厳密にはミュージカルではなく「ライブ映画」ではありますが、そのジャンルの金字塔との評価を保ち続けていたことも大納得。「インタビューなし」「ライブのみ」のストイックな作りでありながら、編集も撮影も洗練されており、楽曲それぞれがメロディアスでノリノリになれて全く飽きることがありません。
タイトル通り「意味を考えない」ままでも、トーキング・ヘッズを全く知らなくても、問題なく楽しめるでしょう。ぜひ、劇場の大きなスクリーンで見届ける機会を逃さないでください。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。