7:『Tick, tick... BOOM! : チック、チック…ブーン!』(2021年)
Netflix配信作品で、『RENT レント』を生んだ作曲家ジョナサン・ラーソンの自伝ミュージカルの映画化作品。物語で主軸になっているのは、一流の作曲家を目指すも、30歳を目前にして焦りを覚える青年の葛藤。アンドリュー・ガーフィールドが切なくも共感できる主人公を完璧に演じ切っていました。『モアナと伝説の海』『ミラベルと魔法だらけの家』でも楽曲を手掛けた音楽家リン=マニュエル・ミランダの長編映画初監督作で、メロディアスな音楽とシンクロする、想像と現実も入り混じったような、独特の感覚を得られる編集と演出も大きな見どころ。焦燥感を持ちながらも純粋に夢を見る作家の人生を切り取った物語としても、「創作」の寓話(ぐうわ)としても高い完成度を誇っています。
8:『ディア・エヴァン・ハンセン』(2021年)
ブロードウェイミュージカルの映画化作品で、セラピー用に自分宛に書いた手紙が、自殺をした粗暴な同級生の遺書だと思われてしまい、うそを重ねてしまうという物語です。相手の両親を悲しませないためとはいえ、主人公の行いは見る人にとっては嫌悪感を覚えるでしょうし、実際に大いに賛否両論を呼んだ作品でもあります。しかし、筆者個人は優しいがゆえにうそを突き通そうとしてしまう主人公のことがどうしても嫌いになれませんでした。相手の両親にとって、息子に友達がいたという「物語」は救いになるかもしれないが、それはしょせんはうそであり、余計に周りの人を苦しめてしまう結果につながりかねない……その危うさと残酷さにも真摯(しんし)に向き合っていました。現実で悲しいという言葉でも足りない自死の報道があった今、この物語が救いになる人もいると思います。