5:『シラノ』(2022年)
17世紀フランスに実在した剣豪作家を主人公にした戯曲の再映画化で、外見に自信が持てない男が、恋敵のはずの青年と想い人が添い遂げられるように、恋文を代筆するという切ない物語が展開します。戦争時に「手紙の代筆」を主軸とした物語がつむがれる様は、日本のアニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』(TOKYO MXほか)も連想しました。歌うシーンが少なめの「ミュージカルしすぎていない」バランスは、むしろ受け入れやすいという人もいるでしょう。それでいて、小人症の俳優ピーター・ディンクレイジの哀愁が漂う存在感と演技力、声の良さも存分に堪能できるはずです。『つぐない』や『PAN ネバーランド、夢のはじまり』などのジョー・ライト監督らしい美麗な画と、贖罪(しょくざい)を描く作家性も貫かれていました。
6:『ウエスト・サイド・ストーリー』(2022年)
ブロードウェイミュージカル『ウエストサイド物語』をスティーブン・スピルバーグが再映画化。描かれるのは、移民が増える中で人種差別や貧困の問題が深刻化し、若者たちのチームの対立が激化する中でのラブストーリー。物語が悲劇的な方向へと進むからこそ、明るいミュージカルの雰囲気および歌詞とのギャップが、より感情を揺さぶる内容にもなっています。大胆なカメラワークや編集で演出されたダンスシーンはとてつもなくエネルギッシュで、世界トップクラスのスタッフとキャストによるミュージカルシーンそれぞれが「極上」の完成度。イチオシはアップテンポでキャッチーなダンスナンバー『America』。劇中で移民への差別や偏見が容赦なく描かれるからこそ、異なる場所で育った人々が集う場所への希望を託した歌詞に注目してほしいです。