批判の声も多いトランプ、なぜここまで支持率が高いのか
ここまで大統領戦の仕組みを説明してきたが、今回の選挙で注目されているのは、2017~2021年まで大統領を務めたトランプ前大統領が、返り咲くかどうかだ。トランプ前大統領は、アメリカ第一主義を掲げ、国内では移民などへの排他的な言動を行い、国際的には同盟国の弱体化や国際協調の輪を乱してきたとして批判されてきた。また2020年11月の大統領選挙に敗れた際には、選挙が不正だったと根拠なき主張をし、2021年1月の退任直前に支持者らがワシントンの議会場で暴動を起こすのを扇動したと批判されている。だが逆に、国内では保守層を中心に、トランプの強硬なアメリカ第一主義に熱狂的な支持を送る人たちも多い。
今回の大統領選で、トランプ前大統領は、2022年11月15日に出馬宣言を行った。「アメリカを再び偉大にするため」に立ち上がったと主張し、再び移民批判を繰り広げるなど、言動は変わっていない。
ところが、トランプ前大統領の支持率は高い。共和党内での支持が高いのは選挙結果からも明らかだが、対バイデン大統領でも世論調査ではトランプ前大統領の優勢が伝えられている。
つまり、アメリカ国民の中に「待望論」があるということだ。トランプ前大統領は選挙資金で不倫相手に口止め料を支払ったなど4つの刑事裁判を抱えている。だが仮に有罪になっても大統領選への立候補を妨げることはないし、トランプ前大統領が勝利すれば、こうした裁判も全て自ら恩赦してなかったことにしてしまうだろう。
一方で、バイデン大統領批判も少なくない。2024年1月の世論調査でも、支持率は38.8%で、不支持率は55.7%に上る。
まず高齢であることが国民に不安を与えていると見られるが、それだけではない。国内で投資などを増やしてはいるが、インフレ傾向で国民に不満が高まり、国境に不法移民があふれるなど不法移民対策も批判されている。
国際情勢においてもバイデン大統領の方針は批判にさらされている。筆者が最近話を聞いたCIA(アメリカの中央情報局)の元幹部は、「米軍のアフガニスタン撤退の失敗から始まり、国際的にもバイデン政権の弱さがロシアによるウクライナ侵攻やガザのイスラム組織ハマスによる大規模テロを許したのは間違いない」と指摘している。
もちろん、過去には支持率に反した結果が出たことは何度もあるし、選挙だけはふたを開けてみないと分からない。ただトランプ前大統領に勢いがあるのは感じ取れるし、嫌悪の声も耳にする。
次の大統領が就任するのは2025年1月20日からだ。アメリカ国内のみならず、世界中が、トランプ前大統領が復活するかどうかを注目している。
この記事の筆者:山田 敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。
X(旧Twitter): @yamadajour、公式YouTube「スパイチャンネル」
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。
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