未来を悲観しているのは「若者だけ」ではない
さらにこんな話もある。日本では、未来を悲観しているのは若者だけではないことだ。アメリカのシンクタンクであるピュー研究所が、親世代を対象に、自分たちの子どもが成長した頃には今よりも暮らしが経済的によくなると考えているかどうかを調査している。国ごとに見ていくと、日本の親世代はダントツで悲観的で、回答者の82%が子どもが成長した頃には暮らし向きは悪化しているだろうと見ている。ほかの国を見ると、アメリカは72%、韓国は60%、シンガポールは42%が、自分たちの子どもが成長したときに生活は苦しくなると見ている。こうした親世代の空気も、日本の家庭内で若者に伝播(でんぱ)しているのかもしれない。これらの調査結果をまとめると、日本人の若者が、海外に比べてより悲観的である理由が見えてくる気がする。
体感として「経済成長」を感じられらない日本
これは極端な例かもしれないが、若者の希望といった話をすると筆者は2011年に、長年の独裁政権が民政に移った直後のミャンマーを訪問して見た光景を思い出す。その空気感には驚かされた。それまでの封鎖された国家が、世界に門戸を開いて「最後のフロンティア」と世界から騒がれ、人と投資が流れ込んでいた。若い層を中心に、ミャンマーの人々はこれから間違いなく生活が豊かになると確信しており、どこに行っても希望に満ちあふれた熱を感じた。つまり、国の未来に希望を抱くことができれば、世間の空気が高揚して生き生きとし、国民も盛り上がるのである。ちなみに、残念ながら、ミャンマーはその後、再び軍政に逆戻りしてしまったのだが……。現在の世界の若者にとっては、国内事情や世界情勢は、これまで以上に不安要素が多いと言えるだろう。新型コロナ禍が過ぎた今、今度は働き方の劇的な変化やAI(人工知能)の台頭などによって就労環境も不安定になりつつある。すでに豊かな国である日本の場合は、多くの人が体感的に経済成長を感じられず、戦争など国際情勢の混乱による物価高や、なかなか上がらない賃金など、ポジティブな要素をあまり感じることができていない。さらに、「BIGLOBE」の調査結果にあるような、政治への不信感を高めるようなニュースが毎日のように噴出する有様だ。
世界でも未来を懸念する若者はいる。だがその中でも、日本人の悲観度は際立って高い。そして残念ながら、この傾向がすぐに改善されることはなさそうだ。2024年には若者がポジティブになれるようなニュースを期待したいものである。
この記事の筆者:山田 敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。
X(旧Twitter): @yamadajour、公式YouTube「スパイチャンネル」
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。
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