『ウォンカ』も移民への排他的なふるまいを描いていた
さらに、12月8日より公開中の『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』は子どもから大人まで楽しめるミュージカルファンタジーであると同時に、実は権力者からの移民への排他的なふるまいや、搾取の構造がはっきりと描かれた作品でした。ポール・キング監督は『パディントン』でも(クマの)移民を主人公としており、その紳士的な行動や他者への親切心の大切さを示していました。この『ウォンカ』でも、善良でお人よしの主人公が初めこそだまされて不利益を被るも、それでもやがて世界を変えていく尊さを伝えているのです。
さらに、現在はApple TV+でレンタル鑑賞できる、実際のアメリカ先住民連続殺人事件を描いた『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』も搾取の構造の問題を描いており、その中で「ただ流されてしまう」主人公の器の小ささが悲しく、その様は半ばブラックコメディーのようでさえありました。
こうした搾取の構造の多くもまた、人種や移民に限らない、偏見や差別に起因するものでしょう。
『窓ぎわのトットちゃん』の劇中に出てきた小説は……
さらに、12月8日より公開されている、黒柳徹子による自伝的物語をアニメ映画化した『窓ぎわのトットちゃん』は、おしゃべり好きで落ち着きのない女の子がユニークで自由な校風の学校で楽しく暮らし始めるものの、戦争の影が忍び寄る様を恐ろしくも入念に描いた大傑作でした。同作では、戦時中の画一的な考え方による差別や偏見がまさに描かれていますし、黒人奴隷を描いた小説『アンクル・トムの小屋』への言及もあります。ぜひ、こちらも優先的に見ていただきたいです。
『ティル』の事件は過去のものではない
現実では2020年5月25日、黒人男性が白人警官に首を膝で押さえつけられ窒息死するという「ジョージ・フロイド氏暴行死事件」があり、そのことを発端としてアメリカのみならず世界中で「Black Lives Matter」を掲げた運動が広がりました。前述した『隔たる世界の2人』は、その事件をもとに制作されています。その事実からもまた、『ティル』での1950年代に起こった事件が過去のものではないと思い知らされますし、その映画本編の最後のテロップで表示される事実も、重く受け止めなければいけません。その問題は、『隣人X -疑惑の彼女-』で描かれたように、日本社会で生きている私たちにとっても、他人事ではないのです。そうしたことを、これらの映画から、ぜひ受け取ってほしいです。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。