3:『エンパイア・オブ・ライト』(Disney+で配信中)
『アメリカン・ビューティー』のサム・メンデス監督による、海辺の映画館で働く女性と、新人の青年の交流を描いた作品です。同じ職場で働くうちに互いを理解し、相手のためを思うようになっていく、尊い関係性の変化を感じられるでしょう。物語の舞台は、厳しい不況と社会不安に揺れる1980年代初頭のイギリス。しかも、主人公の女性はつらい過去に苦しむだけでなく、支配人から性的な搾取もされていて、精神を病んでしまいます。そこに、人種差別の風潮までもが、直接的な暴力となって襲い来る恐ろしさがありました。
第95回アカデミー賞撮影賞にノミネートされており、舞台である映画館の全ての色彩が美しく、ロマンティックな映像と共に物語がつづられます。だからこそ、現実の過酷さがより際立つのですが、それでも悲劇だけでは終わらせない、温かさと優しさに満ちた作品に仕上がっていました。
4:『アルマゲドン・タイム ある日々の肖像』(各配信サービスでレンタル中)
『アド・アストラ』のジェームズ・グレイ監督が、自身の少年時代の実体験をもとに作り上げたドラマです。舞台は1980年のニューヨークで、白人の中流家庭に生まれた12歳の少年が、クラスの問題児である黒人生徒と友人となるのですが……その後はある出来事がきっかけで、2人の関係が変わっていきます。主人公の少年は、まったくというほどに差別的な感情を持っていません。だからこそ2人は親友になったのですが、その顛末(てんまつ)には思いもよらぬ人種差別の問題が関わっていました。子どもの頃に「悪事」をしでかしたことがある大人であれば、その頃の記憶が否応もなくよみがえって、より胸が締め付けられるでしょう。
その主人公の境遇を思えば、彼の理解者である祖父を演じたアンソニー・ホプキンスの言葉が、より尊く思えるのではないでしょうか。苦々しくはあるけれど、「それだけじゃない」子ども時代をいつくしむように描いた内容なので、『スタンド・バイ・ミー』が好きな人にもおすすめです。