5:『ソフト/クワイエット』(各配信サービスでレンタル中)
なんと「全編ワンカット」で展開する、白人至上主義を掲げる6人の女性の顛末を描いたサスペンスドラマです。彼女たちは初めこそ「物腰柔らかで静か」というタイトルに沿うように「お茶会」で平和に話し合っているようでいて、その会話の内容は「いかに有色人種により不利益を被っているか」「彼らをどうにかして排斥しよう」といったものだったのです。その会合の後、とあるささいなやりとりをきっかけに、彼女たちはいたずら半分で家を荒らしに行き、その後は予想だにしない事態へとなだれ込んでいくのです。その様から、同様に犯罪劇をリアルタイム進行で描いた、アルフレッド・ヒッチコック監督の『ロープ』(1948年)も連想しました。
それでいて、決して生真面目な内容というわけではなく、数多くのホラー映画を世に送り出したブラムハウス制作らしい、いい意味で意地が悪く苦しい展開が連続しながらも、エンタメ性も高い内容になっています。何より、差別や偏見による嫌悪感が暴力や犯罪に行き着いてしまう、ヘイトクライムの問題をストレートに感じられるでしょう。
それより前の差別や偏見を描いた映画6選
それより前、2020年から2022年に日本で公開または配信された、人種差別・偏見の問題が描かれた映画も一挙6作品紹介しておきましょう。1:『ブルー・バイユー』(2022年)……30年以上前の書類の不備のために、強制送還されそうになる韓国生まれの青年と家族の物語。美しい映像と俳優の熱演、貧困の最中にいる人間のドラマなどは『万引き家族』にも通じます。Netflixで配信中。
2:『隔たる世界の2人』(2021年)……タイムループに閉じ込められてしまった黒人男性が、愛犬の待つ自宅に帰る途中で白人警官に殺される恐怖を何度も繰り返します。第93回アカデミー賞最優秀短編実写映画賞受賞作。Netflixで独占配信中。
3:『アンテベラム』(2021年)……夫と幼い娘と共に幸せな毎日を送っていた人気作家が、過酷な労働を強いられている南部の奴隷の悪夢を見て……。2つの視点の日常が描かれ、驚がくの真相が導き出されていく異色スリラー。
4:『キャンディマン』(2021年)……1992年製作の同名ホラー映画のリメイク。差別への強い怒りを示唆する会話劇が主体のためエンタメ性はやや低めながら、ここぞという時の恐怖演出や「影絵」で語る昔話の構図が見事です。
5:『黒い司法 0%からの奇跡』(2020年)……確たる証拠がないのにもかかわらず、殺人事件の犯人に仕立てられた死刑囚を救うために新人弁護士が奔走する、実話をベースとした物語。
6:『ルース・エドガー』(2020年)……模範的な生徒だったはずの少年が、ある課題のレポートをきっかけに、女性教師から危険思想の疑いをかけられてしまいます。「人間をステレオタイプにはめ込む」ことから発生する偏見と差別を痛烈に突きつける作品。