5分間単語バトルで、とにかく辞書を引く
見せてもらったのは中学1年生の授業。授業のはじめには、5分間単語バトルという時間があります。鬼丸先生の「スタート」という掛け声から、生徒たちは黙々と辞書を引きはじめました。誰ひとりぼーっとすることなく、黙々と取り組んでいて、響くのはページをめくる音だけ。最初は辞書を引くのもおぼつかなかった生徒たちですが、入学から約半年経った今では、速い生徒は5分間で20単語以上引くそうです。
今は紙の辞書を使うところは少なくなりましたが、あえてそれを使っているのは、辞書を引くという行為自体に意味があるから。
電子辞書はボタン1つで目的の単語に行き着くのに対し、紙の辞書はパラパラとページをめくって、行ったり来たりしながら、やっと目的の言葉にたどり着く。面倒くさいけれど、その過程で自分が調べたい単語のほかにも、つづりが似た単語が前後にあるので、自然に目に入ります。意味も1つではないので、辞書を読むことで日本語の語彙(ごい)も広がります。
また、調べた言葉をマーカーで印をつけたり、書き込みをしたり、付箋を貼ったり、カスタマイズしていくことで、達成感が感じられ愛着も湧きます。「それが一生の宝になる」と鬼丸先生。
実際生徒たちの辞書にはマーカーがたくさん引かれていました。私はそんなふうに辞書を使いこなしたことがなかったので、その様子は驚きでした。
多読でコンブリッジの原書にたどり着く
単語バトルが終わると、次は多読の時間。図書館には、鬼丸先生がそろえた多読用の本や先生が生徒たちに読んでほしいと取りそろえたさまざまな分野の原書がそろっています。生徒たちはその中から、自分のレベルや興味にあった本を選んで辞書を片手に読んでいきます。ここでも誰もふざけたりせず黙々と読んでいました。
早い子は40分で2000単語くらい読むそうですが、決して最初からそんなに読めたわけではありません。4月に英語圏の幼児が読む1冊20単語程度の絵本から読み始め、今では世界美術史家エルンスト・ゴンブリッチが書いた本を、原文で読む生徒も出ています。
エルンスト・ゴンブリッチは近代の美術史家として有名ですが、子どもたちが理解できる言葉と概念だけを使って書いた『若い読者のための世界史』は世界中で読まれている大ベストセラーです。これは名著といわれ、鬼丸先生おすすめの1冊。かなり分厚いその原書を中学1年生が何人も読んでいるのは驚きでした。
授業が終わった後に、生徒たちが話しかけてくれました。彼らは、今ゴンブリッチの本を読んでいるそうです。入学した当初は全く英語はできなかったけれど、絵本から読み始めて6カ月、単語バトルと多読を重ねていくうちに、コンブリッジの原書を読み切るまでになったのです。
「自分でもこんなに読めるようになるとは思いませんでした。次は哲学の本を読もうと思っています。今英語の本を読むことが楽しくて仕方ないです」とうれしそうに話す生徒たち。英語の本を読みながら、読書の楽しさも知ったと話してくれました。
高槻中学高等学校では、英語教育を抜本的に見直し、多読に加えて、日本の教科書ではなくケンブリッジ英語を導入し、英語圏の人たちが学ぶのと同じ方法で英語を学ぶことにしました。
これは日本の英語教育とは全く違う、英語で英語を学ぶアプローチです。多読でコンブリッジの本にハマっているような生徒たちは、中学1年生で英検3級や準2級に合格しているそうです。これは、英語のインプットが格段に増え、その結果英語に対する壁がなくなってきていることの証かなと感じました。