ここに1冊の絵本があります。
タイトルは『先生、ぼくは宇宙人じゃないよ?』(三恵社)。著者は古内しんごさん(以後しんごさん)。現役の小学校の先生です。この本はクラウドファンディングによって作られました。全国の小学校などに寄贈され、現在は一般販売もされています。
そこで、現役の小学校の先生が、どんな思いでこの絵本を作ろうと思ったのか聞きたくてインタビューをしました。
小学校教師が絵本を作ったわけ
この本の主題は、小1プロブレム。その解消を目的に作られました。小1プロブレムとは、小学校に入学したばかりの1年生が、なかなか小学校になじめず問題行動が続くこと。例えば、授業中、席に着いていることができない。集団行動が取れない。先生の話を聞けない。指示に従うことができないなどなど、小学校のクラス運営が困難な状況になってしまう状況を表しています。
小1プロブレムの原因について、しんごさんは、「保育大学出身の小学校教師という自身のバックボーンがあるから特にそう思うのかもしれないが」と断りつつ、「今の日本では、幼保と小学校の連携が取れておらず、保育者がどんな保育をしてきたか、それぞれの子どもがどんな特性を持っているかという情報がきちんと届けられていません。幼稚園・保育園と、小学校の校種を越えた連携 (幼保小連携)がうまくいっていないことが大きい」と指摘します。
「小1プロブレムがクローズアップされた当時、『最近の子はおかしい。家庭での躾(しつけ)がなっていないのではないか』という論調も多かったですが、今は幼児教育と小学校の教育の違いと、双方の連携が取れていないことも一因であると言われ、文部科学省は幼保小の連携を図る架け橋プログラムを推進しています。各自治体も、引継ぎ資料作成の指示など、校種間の摩擦を減らすシステムを試行錯誤していますが、実際は、保育士や教師の多忙化の現状もあり、資料作成という手段が目的化して負担になったり、受け取った資料に目を通せなかったり、連携システムが形骸化し生かせない現場が多くあります」(しんごさん)
子どもの立場に立ってみれば、幼稚園や保育園と学校では、1日の過ごし方も大きく変わります。
幼稚園や保育園は遊びが中心。その中で、友達との関わり方などを失敗しながら学び成長していきます。
一方、学校は時間割に沿った勉強が中心の生活で、集団行動が求められます。1年生になった途端、いきなりそれまでとは違うシステムの中に放り出されても、まだ成長にも差がある時期ですから、当然すぐに新しい環境に適応できる子ばかりではありません。小学校の当たり前に戸惑い、集団からはみ出した行動をしてしまう子どもはいるでしょう。
「でもそんな子どもたちも、全く何もできないのではなく、それまで頑張ってきた積み重ねがあります。卒園するときには、年下の子の面倒も見るヒーローだったのに、学校に入った途端、未熟な低学年として扱われるという状況がある」としんごさんは言います。
でも、そのギャップが埋められないまま、集団行動を乱す困った子というレッテルを貼られてしまうのです。その結果、子どもによっては、2年生以降に問題行動として現れることも少なくありません。小1プロブレムは、1年生に限った課題ではないのです。
不登校児童生徒数は、過去最高に
「令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」によると、小・中学校における不登校児童生徒数は29万9048人。前年度から5万4108人(22.1%)も増加し、過去最多となりました。小・中・高校などで認知したいじめ件数も過去最多の68万1948件となっています。不登校の内訳は、小学校が10万5112人(前年度比29.0%増)、中学校が19万3936人(同18.7%増)。10年前と比較すると小学生は3.6倍、中学生は2.1倍増となっています。
「子どもたちは多かれ少なかれ、学校で『頑張りたい』というキラキラした思いをもって入学している」としんごさん。
そのキラキラした思いがどこで消えてしまい、学校に行きたくないという気持ちになってしまうのでしょうか。その始まりが、小1プロブレムにあるのかもしれません。またこれは中学・高校と進学していく際にも起こっている問題だと言えるのではないでしょうか。
そこでしんごさんは、小1プロブレム問題の解決の糸口にしたいと、誰でも手に取りやすい絵本という形でこの問題を表現しました。