AIに負けない子の育て方 第7回

僕は、問題児なの? 子どもを“学校嫌い”にする大人が「やってしまっている」こと

ワクワクして学校に入学した子どもたちが、問題児にされ、だんだん暗い気持ちになっていく。でも人を困らせようと思っている子なんていない。小1プロブレムの問題に正面から向き合った教師のお話です。

人のことを困らせたい子なんて1人もいない

しんごさんがこの本に込めた思いは主に次の4つです。

1つ目は、子どもを人格として見る。子どもをたった1人の尊い人間として見る。
2つ目は、人を困らせたい子なんて1人もいない。
3つ目は、愛を実感する経験をしているか。
4つ目は、子どもを送り出す先生の思い。
 
「1つ目の子どもをたった1人の尊い人間として見る。信じ抜くということは、とてもシンプルだけど難しい」としんごさんも言います。

小学校の先生も、決して子どもをないがしろにしようなんて思っていないはずです。絵本に出てくる先生も悪意があったわけではなく、目の前の子どもの行動にとらわれて、子どもの本当の気持ちに気付くことができなかったのでしょう。

でも、「どんなに先生や友達を困らせちゃう回数が多い子でも、人を困らせようと思ってやっている子は1人もいない」としんごさんは訴えます。

衝動的に友達に手を出しちゃう子はいるけれど、その子も困っている。変わりたくても変われない環境に置かれ、助けてって泣いているのかもしれません。1人ぼっちで苦しんでいる。そんな子のことを1人の尊い人間として信じ切ることができたら……どうなるでしょうか。

実際、しんごさんもかつて受け持ったクラスの中に、問題児と言われ、なかなか心を開いてくれない生徒がいました。でも、辛抱強く向き合った結果、2年たってやっと心を開いてくれたという経験があるそうです。

「適切な支援方法が見つかったわけではなく、ひたすらその子のことを信じて、見捨てないという覚悟を持って諦めずに向き合った結果だと思う」としんごさん。そんな経験から、まずは、子どもの心のコップを満たしてあげることが大切だと言います。

いくら「人に優しくしなさい」と言われても、優しくされた経験がなければ、優しいってどういうことか分からない。分からないから人には優しくなんてできるはずがないのです。
信じる先生(『先生、ぼく宇宙人じゃないよ?』より)
信じる先生(『先生、ぼくは宇宙人じゃないよ?』より)

信じてくれる大人の存在が子どもを変える

絵本でも、先生から信用されていないと感じ、どんどん目をつり上げていった主人公が、高学年になって担任になった先生がその子の力を信じて、粘り強く対応することで少しずつ心を開き、またキラキラした虹色の心を取り戻していきます。
 
今苦しい思いをしている子がいるとしたら、その子に何をしてあげられるでしょう。
 
最後にしんごさんの思いを聞きました。

「先生も頑張っているし、どうしても1人ひとりの子どもというより、子どもたちという視点で全体を見なければならないことも多いです。親だって、たとえ1人っ子でも、他の子どもたちとの比較の中で捉えてしまいがちです。目の前にいる子どもを信じて見守るということは、そんなに簡単なことではありません。しかし、そのシンプルだけど簡単ではないことをやり抜いたら、どんな世界が広がるか、どれだけ価値があるかということをこの絵本を通して感じてもらえたら! というのが、僕の1番の思いです」
 
しんごさんの話を聞いていて、『マインドセット』の研究で有名なアメリカのキャロル・S・デュエック博士の言葉を思い出しました。「能力は生まれつき決まっている」と捉えるこちこちマインドセット(fix mind)の持ち主と、「能力は努力次第でいくらでも伸びる」と捉えるしなやかマインドセット(grows mind)の持ち主がいるけれど、「できないではなく、まだできていないだけ(not yet)」と捉え方を変えるだけで、子どもたちのマインドセットは変わり、困難なことにも挑戦するようになります。

ドゥエック博士の研究でも、小さい時からの大人の声掛けが、子どものやる気、成長マインドセットに大きな影響を与えるということが分かっています。

小1プロブレムの問題を克服するには、先生の働き方など制度の問題も大きいと言われていますが、少なくとも、キラキラした気持ちで学校の門をくぐった子どもたちが、だんだん目の光を失っていくことのないようにしたい。

そのためには私たち大人が、1人ひとりの子どもたちを大切に思い励ますことが、どれだけ子どもたちを守ることになるかということを思い出させてくれる絵本です。ぜひ手に取ってみてください。

『先生、ぼくは宇宙人じゃないよ?』(読み聞かせ動画付き)
最初から読む
 
古内しんごさん
古内しんご プロフィール
教育コーディネーター/小学校の先生(東京都)/子育て教育コミュニティ『つみき』の代表。保育大学で学び、小学校で6年間担任をしたのち、現在は小学校で講師をしながら、「子育てを孤育てにしない/教育を学校だけでしない」を合言葉に、《子育て教育がより多くの人の自分事になる社会》を目指して、場づくり、講演、発信活動等をしている。保育、教育相談、道徳、特別支援、人権、発達心理学などの知識経験を活かしてカラフルに活動中。

この記事の執筆者:中曽根 陽子
数少ないお母さん目線に立つ教育ジャーナリストとして、紙媒体からWeb連載まで幅広く執筆。海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエーティブな力を育てる探究型の学びへのシフトを提唱。お母さんが幸せな子育てを探究する学びの場「マザークエスト」も運営している。『1歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』(晶文社)など著書多数。
Lineで送る Facebookでシェア
はてなブックマークに追加

連載バックナンバー

Pick up

注目の連載

  • 「港区女子」というビジネスキャリア

    深刻な男女賃金格差から「港区活動」を“就職先”にする危険性。港区女子になれなかった女子大生の末路

  • ヒナタカの雑食系映画論

    草なぎ剛主演映画『碁盤斬り』が最高傑作になった7つの理由。『孤狼の血』白石和彌監督との好相性

  • 世界を知れば日本が見える

    もはや「素晴らしいニッポン」は建前か。インバウンド急拡大の今、外国人に聞いた「日本の嫌いなところ」

  • 海外から眺めてみたら! 不思議大国ジャパン

    外国人観光客向け「二重価格」は海外にも存在するが……在欧日本人が経験した「三重価格」の塩対応