“顔が良いだけのモデル”がドラマ主演なのは一昔前の話
原作でも芸能界の裏側を見せることを作品の要素にしている『推しの子』ですが、作者や関係者の取材ソースが一昔前なのではと思える描写が多く登場します。例を上げれば、人気の若手モデル・鳴嶋メルトの描き方です。メルトは顔立ちが整っていて若者に人気ですが、大根役者で作品に出演しても適当な演技を披露。作中に登場するWebドラマ『今日は甘口で』にて、主演を務めますが悪態をつく始末です。
そもそも、1つの作品の失敗で今後のタレント人生が左右されてしまう中、モデルあがりの俳優でもしっかりと下準備し全力で挑みます。メルトはその後も原作で登場し活躍の場面もありますが、その描かれ方も少々古いと思われます。
悪者にされがちな「テレビ関係者」……現実は?
さらに作品では、テレビ関係者がなんだか悪者に描かれているのが気になるところ。特に原作の第7章「中堅編」に登場するディレクターの漆原は、地上波にできない過激な番組を作りたいという信念を持つパワハラ体質の人物です。若手ADの吉住シュンが、パワハラの被害にあう描写もふんだんに登場します。2人はネットテレビ関連の仕事をしている設定ですが、ABEMAやAmazonプライム・ビデオなどを例に挙げれば、スタッフはそこまで劣悪な環境で仕事をしていないと聞きます。そもそも、ネット配信番組に関わるのは外部の制作会社スタッフが多いのですが、不祥事があれば運営元の親会社(ABEMAならサイバーエージェント)にも批判が及ぶため、しっかりとした管理体制を問われます。
制作上でパワハラなどあるようなら、その制作会社はすぐに外されるのが現状。現に、いまや民放テレビ局でもパワハラ、モラハラはすぐに週刊誌などに密告され、場合によっては当事者が左遷やクビになる可能性があります。
もちろん、真剣に番組を制作する中で過酷なこともありますが、漆原のようなディレクターがいれば、すぐにクビになるのが現実。ここは、物語を面白くするために「完全悪」を作り出す必要があり、結果、世間的にも叩かれやすいテレビ関係者が悪者にされた印象を受けてしまいます。
一昔前の芸能界を映し出した、ファンタジー作品として楽しむ
さて、ここまで『推しの子』を別角度から解説してみました。全編通して思うのは、少し前の芸能界を見ているようだという感想です。パワハラ・セクハラ上等、劣悪な職場環境など、一般的なイメージの芸能界が存分に楽しめる作品になっています。そういった意味では、いまではなくなってしまった、良くも悪くも“うさんくさい”芸能界やテレビ業界を、エンタメとして味わうことができる素晴らしいアニメです。
リアルな芸能界の裏側が描かれていると持ち上げるメディアもありますが、そこは漫画が原作のアニメ。逆に言えばファンタジーだからこそ面白い、芸能人やテレビの裏側を体感できる作品として第2期のアニメを見れば、より面白さが倍増すると思います。
この記事の筆者:ゆるま 小林
長年にわたってテレビ局でバラエティ番組、情報番組などを制作。その後、フリーランスの編集・ライターに転身。芸能情報に精通し、週刊誌、ネットニュースでテレビや芸能人に関するコラムなどを執筆。編集プロダクション「ゆるま」を立ち上げる。