4:『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』(Netflixで配信中)
本作は同じ時間を繰り返す、いわゆる「タイムループ」もの。なんと本作でループするのは「1週間」という気が遠くなるスパンで、しかも「“超”がつくほどに鈍感な上司に気づかせないと終わらない」という難易度の高いもの。その攻略に至るまでのさまざまなアイデアが面白くて仕方のない快作に仕上がっていました。1週間かけた仕事が全部リセットされるのにもかかわらず、「いつループから抜け出してもいいように、社会人として仕事はある程度はちゃんとしておこう」という、ほぼ「社畜」的な考え方がコミカルかつホラー的に描かれているのも大きな特徴。ある意味では、働いていると一度は抱いてしまう「同じことの繰り返しに思えてしまう」様を、タイムループという特殊な事象に当てはめて描いているといってもいいでしょう。
会社のお偉いさんに何かを訴えるだけでも面倒な手続きやコミュニケーションが必要だったり、いざ話し合いの場面もなかなか理解が得られなかったりする苦労も「会社あるある」でしょう。仕事の大変な面だけでなく、いい面もしっかり描いていて、上司を含め社員たちみんなが愛おしく思えてきて、ちょっぴりポジティブな気分になれるのも本作の美点です。
後半からの意外な展開、そして感動のクライマックスから仕事に希望をもらえる人はきっと多いでしょう。終盤で口にされる「自分にできること」にまつわる言葉が、金言として刺さる人もいるはず。同じく仕事映画かつインディーズ映画ながら高い評価を得た『カメラを止めるな!』に通ずる魅力があるので、そちらが好きな人にもおすすめします。
5:『映画 ゆるキャン△』(Amazonプライムビデオで配信中)
テレビアニメや実写ドラマ版も好評を博した漫画『ゆるキャン△』のアニメ映画です。原作の魅力は、個性豊かな女子高生たちが、タイトル通りにゆるいキャンプをする過程でのほほ笑ましいやりとりや、本格的なキャンプのノウハウ。そして、この映画で描かれるのは原作よりも未来の、彼女たちが社会人になってからの「キャンプ場作り」です。今回も『ゆるキャン△』らしいゆるくて癒される雰囲気はそのままに、キャンプ場作りにおいては「甘やかさない」物語にもなっています。草刈り作業や長距離移動、その他にも大小さまざまな困難が待ち受けていますし、さらに「どうしようもない」大きな問題にも直面するのですから。
そうした困難を経て、「社会人としての当たり前のこと」が、とても胸に響くものにもなっていました。それは例えば、自分の仕事が、何かのいい影響を誰かに与えるかもしれないということ。キャラクターそれぞれのエピソードが、社会人としての在り方、そして人と人をつなぐ「縁」を示しているようでもあり、それはお金という行動原理を超えた、「人が仕事をする理由」にもつながっているのです。
物語はほぼほぼ独立しているので『ゆるキャン△』をまったく知らない人でも楽しめますが、原作やアニメを事前に触れておくと、キャラクターそれぞれが大人になってからの変化(あるいは変わらないところ)に気付き、より感慨深くなるでしょう。社会人になった誰もが少なからず到達する、普遍的な喜びを改めて知りたい人にもおすすめします。
6:『ハケンアニメ!』(Netflixで配信中)
辻村深月の同名小説を映画化した作品で、タイトルのハケンの意味は、一定の時期にもっとも多くの売り上げまたは人気を獲得したアニメを指す「覇権」。公務員からアニメ業界に飛び込んだ新人女性監督と、ワガママでこだわりの強い天才監督が火花を散らすバトルが勃発します。対照的なクリエイターの対決という点で漫画『バクマン。』(集英社)を連想する人も多いでしょう。予告編などではコミカルな雰囲気を感じられるかもしれませんが、実際の本編の雰囲気はややダウナー。それこそが地道な作業の繰り返しであるアニメの制作現場、はたまた作り手の執念を示しているかのようでもありました。ちょっとした言動が後の展開に呼応するよう伏線が忍び込まされていて、明確に言葉にしなくても作り手の思いがこれ以上なく伝わる場面があるなど、物語もこれ以上のないほどの完成度を誇っています。
さらに称賛すべきは、劇中のアニメを「ガチ」のスタッフとキャストで全力で作り上げ、ハケン(覇権)を争うことに説得力を持たせたことでしょう。「これほどのアニメを作るためにはどれだけの労力が必要だったのか」と思わせるからこそ、劇中のクリエイターそれぞれの仕事のすごさも思い知ることができるのです。
不満を溜め込む新米監督役の吉岡里帆、ひょうひょうとしていてクセの強い実力派監督役の中村倫也を筆頭に、豪華キャスト陣もこれ以上はないほどのハマり役。劇場公開当初は動員で苦戦を強いられたものの絶賛に次ぐ絶賛の口コミにより盛り上がり、さらにその面白さが認められたからこそ、吉野耕平監督が『沈黙の艦隊』(2023年9月29日より現在劇場公開中)でもメガホンを取ることになった事実もうれしくて仕方がありません。
そのほかのおすすめの仕事映画
それよりも少し前の仕事映画のおすすめには、以下もあります。こちらも仕事に限らず、落ち込んでしまった時にこそ見てほしい、元気が出る映画です。『ドリーム』(2016)……NASAの"マーキュリー計画"を影で支えた三人の黒人女性スタッフを描く
『マイ・インターン』(2015)……ファッションサイトの女性CEOが40歳年上の男性アシスタントと交流する
『LIFE!』(2014)……雑誌の最終号の表紙を飾る大切な写真を手に入れるため想像と現実が入り交じる冒険に旅立つ
『ウォルト・ディズニーの約束』(2014)……児童文学「メリー・ポピンズ」の映画化を巡って原作者と対立してしまうけど……?
『舟を編む』(2013)……新しい辞書づくりに挑む個性豊かな人々の奮闘を描く
仕事の「暗黒面」を描いているからこそ見てほしい映画も
さらに、仕事の「暗黒面」を描いたような映画『ボイリング・ポイント/沸騰』も日本では2022年に公開されていました。その内容といえば、「人気高級レストランの裏側を全編90分間ワンカットで描く」上に「悪循環に陥った労働環境と人間関係がギチギチに詰まった」という、いい意味での地獄のような労働環境が描かれた映画なのです。
この映画を見た後は、飲食店で働く人たちの心情を本気で慮りたくなるし、仕事にある問題を真剣に考えたくもなるでしょう。ぜひ、上記に挙げた元気になれるお仕事映画と合わせて、こちらも反面教師的な学びを得る目的でも、見てみてほしいです。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「日刊サイゾー」「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の魅力だけでなく、映画興行全体の傾向や宣伝手法の分析など、多角的な視点から映画について考察する。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。