ヒナタカの雑食系映画論 第45回

「田舎の閉塞感」はホラーの本質? 『ミッドサマー』だけじゃない“この田舎がイヤだ”映画5選

日本でもSNSで話題を集めた『ミッドサマー』。そちらと同様かあるいはそれ以上に「この田舎がイヤだ!」といい意味で思える映画5作品を紹介しましょう。(サムネイル画像出典:(C)Arcadia Motion Pictures, S.L., Caballo Films, S.L., Cronos Entertainment, A.I.E,Le pacte S.A.S.)

理想郷
映画『理想郷』 11.3(金・祝)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シネマート新宿ほか全国順次公開 (C)Arcadia Motion Pictures, S.L., Caballo Films, S.L., Cronos Entertainment, A.I.E,Le pacte S.A.S.
日本で2020年に公開された『ミッドサマー』はSNSで話題を集めスマッシュヒットをしました。内容そのものはR15+指定ならではの残酷描写と性描写もあり決して万人にはおすすめできないものの、「明るい場所でのホラー」「田舎にやってきたら地獄」的なキャッチーなイメージと、本編のエクストリームな魅力が若者を中心に広まったことが実に納得できます。
 
そして、『ミッドサマー』のような、いい意味での「田舎がイヤだ」を推した映画は数多くあります。それこそ「田舎にやってきてひどい目にあう」様は『悪魔のいけにえ』や『ウィッカーマン』などにもあるホラー映画の定番ですし、田舎特有の「閉塞的な価値観」「同調圧力の風習」も多くの人が恐れるものでしょう。

ここでは、その中でも知る人ぞ知る、そしてインパクトが強い、近年の「この田舎がいい意味でイヤだ映画」を5作品紹介しましょう。

1:『理想郷』(2023年11月3日より公開)

スペインの山岳地帯の小さな村に移住してきた夫婦が、隣人から執拗(しつよう)な嫌がらせを受け続け、さらに恐ろしい事件が起こるサスペンスドラマです。村には慢性的な貧困問題があり、風力発電のプロジェクトを巡って夫婦との意見が対立し、関係は泥沼化。一方的な価値観に支配され、警察も十分に対応してくれない「どうしようもなさ」が全編で感じられる内容になっていました。

初めの方の嫌がらせの時点で十分にいい意味でイヤな気分になれますし、その後の「こんなことになるなんて……」と思うばかりの事態には絶望的な気持ちにもなれるでしょう。客観的には生き地獄のような状況にあっても、どれほど娘から反対されようとも、「ここに居続けなければならない」理由が生まれるというのも重要になる、純然たる夫婦のラブストーリーともいえます。実話がベースというのも驚きですが、だからこそ「この問題が現実にある」ことも顧みられるはずです。

2:『Pearl パール』(2023年)

日本では2022年に公開された『X エックス』の前日譚となる作品で、こちらから見ても楽しめる内容です。キャッチコピーには「映画史上、もっとも無垢(むく)なシリアルキラー誕生」とあり、まさにその通りの純粋な少女が映画スターに憧れるも、田舎町で母親から抑圧を受け続け、精神をゆがめ狂気が表出する様が描かれます。ホラーでありながら、「ここではないどこか」に行けない苦しみをつづった、悲しくも切ないドラマでもあるのです。

1918年のスペイン風邪が流行していた時代背景は、現代のコロナ禍の事情にもつながっています。そして、主演のミア・ゴスの長い長いセリフと、あの「表情」を忘れることができません。本作を見た後に『X エックス』を鑑賞すると、また違った感情が湧き上がってくるでしょう。そのどちらもR15+指定納得の残酷描写と性描写があるのでご注意を。2024年公開の3部作の完結編『MaXXXine(原題)』も楽しみです。
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横浜流星主演の「この田舎がいい意味でイヤだ映画」
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