そのほかにも、おすすめの「この田舎がイヤだ」作品
このほかにも、少女誘拐事件を発端として「悪と断定したものを追い詰める」「村八分にする」恐ろしさを描いた、2019年の『楽園』もイヤな田舎映画の代表といえるでしょう。映画ではなく漫画を原作としたドラマですが、2022年12月よりDisney+で配信スタートした『ガンニバル』は、「人喰い」のうわさを追うエンタメ性の抜群の内容ながらもストレートに田舎の同調圧力や閉塞感を描く作品になっていました。制作決定したシーズン2も楽しみです。
2023年9月より劇場上映されたアニメ映画『アリスとテレスのまぼろし工場』はファンタジー設定を持ってして、地方都市に暮らす思春期の少年少女の「ずっと他のどこにも行けない」苦しみを描く作品でした。
はたまた、田舎のイヤな面が主軸ではありませんが、『NOPE/ノープ』は田舎で脅威的な存在と戦う、考察を促す抽象的な作劇ながらアクション映画としても楽しめる内容になっていました。はたまた、羊飼いの夫婦が「羊ではない何か」を育てる『LAMB/ラム』も、荒涼とした田舎を舞台にした不条理劇でありながら、実話を描いた『理想郷』にも通じる場面がありました。
田舎のいいところも描く映画も
アニメ映画では、田舎のいいところを描くこともよくあります。『となりのトトロ』や『おもひでぽろぽろ』などのジブリ映画はその代表でしょう。あの『君の名は。』だって田舎の暮らしを憂いている女子高生の心情を追いながらも、その場所の美しい風景もいつくしむように描かれていました。『おおかみこどもの雨と雪』も田舎に越してきたばかりの苦労と、周囲の人との関係がリアルにつづられていました。はたまた、青春映画の名作『スタンド・バイ・ミー』は田舎だからこその、危ういもののかけがえのない幼い頃の冒険が描かれた作品でした。2023年11月23日より22年ぶりの日本上映となる『ゴーストワールド』は地方都市での「周囲になじめない」高校を卒業したばかりの少女が主人公。そうした「田舎のキラキラしているばかりじゃない青春映画」にも確かな魅力があるのです。
ほかにも、田舎でのとてつもない苦労と、その場所のよさの両方を示した映画もあります。自給自足の生活を丹念に追った『リトル・フォレスト 夏・秋(冬・春)』、林業の仕事のあれこれを教えてくれる『WOOD JOB!(ウッジョブ) 神去なあなあ日常』、オーガニック農場を作り上げるまでの夫婦の8年間を追うドキュメンタリー『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』もあるのですから。
それらの「田舎もいいよね!映画」を、前述してきた「この田舎がいい意味でイヤだ映画」の後に見て、「中和」してみるのもいいでしょう。田舎の暮らしは多くの人が一度は憧れるものだと思いますが、そのいいところと悪いところの両面を知ってこそ、考えられることがあるはずです。
なお、『ミッドサマー』のアリ・アスター監督の最新作『ボーはおそれている』が2024年2月16日に日本公開予定です。こちらは「母の実家へ向かう男を追う」作品だそうですが、果たして、どんなふうに(田舎要素以外でも)イヤな気分にさせてくれるのか……? 楽しみにしています。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の魅力だけでなく、映画興行全体の傾向や宣伝手法の分析など、多角的な視点から映画について考察する。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。