最新作はダークで恐ろしい作品に
すっかり前置きが長くなりましたが、本題です。田口智久監督による今回の『デジモンアドベンチャー02 THE BEGINNING』は、はっきりとダークな雰囲気に満ちた、ほぼほぼホラーと言ってもいい場面もある作品になっていました。前述した映画3作品もそれぞれいい意味で主人公たちを甘やかさないシビアな物語運びがありましたが、今作では大人でも泣いてしまいそうになるほど、過酷で恐ろしい展開も待ち受けているのです。 あらすじは、東京タワー上空に巨大な卵が出現し、「みんなにともだちを。世界中すべてのひとにデジモンを」というメッセージも発信された上に、世界で初めて“選ばれし子ども”になったと宣言する青年が現れるという、謎が謎を呼ぶもの。そして、主人公たちはタイムスリップして青年の幼い頃の姿を目撃します。彼は母親からはっきり虐待を受けており、そして現れた正体不明のデジモンの“ウッコモン”と友達になるのですが……。 そこからの展開はネタバレ厳禁。どういうタイプの恐ろしさがあるのかも、ここでは具体的な言及は避けておきますが、同じくホラー的な展開が子どもの頃のトラウマとして語られることが多い『クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険』や、『アイの歌声を聴かせて』の「幸福と不幸」についてのとあるセリフを連想したことは告げておきましょう。 また、今回のゲストキャラクターである青年の声を演じるのは『エヴァンゲリオン』シリーズの碇シンジ役でもおなじみの緒方恵美。そのこともあってか、脅威となる存在へ仲間と共に立ち向かう様や、「心の闇」にも迫る精神的な葛藤、そしてクライマックスのスペクタクルなどに「エヴァみ」を大いに感じることができますし、緒方恵美の「極限まで追い込まれる」場面の演技のすごさを再確認できました。 もちろん、ただダークで恐ろしいだけではありません。テレビアニメ『デジモンアドベンチャー02』の時から大人へと成長したキャラクターたちが、世界を巻き込む問題に立ち向かいます。ホラー的な展開でいい意味で「どん底」へと突き落とす展開があったからこそのカタルシスも待ち受けているのです。こういう作風になった理由は?
では、なぜ今作『デジモンアドベンチャー02 THE BEGINNING』がダークで恐ろしい作品になったのでしょうか。推測される理由の1つとして参照できるのは、田口智久監督による『夏へのトンネル、さよならの出口』。「取り返しのつかない時間の流れ」が描かれることが今作と一致していますし、「欲しいものが手に入るトンネル」の中の「赤黒い画」による孤独感と恐怖感は、今作のホラー的な展開でもさく裂していたのですから。
さらに、テレビアニメ『デジモンアドベンチャー02』の第23話「デジヴァイスが闇に染まる時」では、今作にも大人として登場する“一乗寺賢”というキャラクターの苦しく悲しい過去が描かれていました。幼い少年の傷ついた心を深く鋭く描くことは、これまでの『デジモン』シリーズにもあったのです。
そこには「デジモンらしさ」があった
いわば、『デジモンアドベンチャー02 THE BEGINNING』では、近作でホラー的な演出もしていた田口智久監督が、過去の『デジモン』のアニメシリーズにもあった「らしさ」をはっきりと打ち出していている、というわけです。さらに、今作の「孤独に追い込まれる悲痛さ」は、前述した『デジモンアドベンチャー』(1999年)と『ぼくらのウォーゲーム!』だけでなく、細田守監督作品のほぼ全てに共通しています。
田口智久監督が、それらの細田守監督による『デジモン』のアニメ映画をリスペクトしつつ、今作の『デジモンアドベンチャー02 THE BEGINNING』では、ダークかつホラー的な面もある自分自身が持つ作家性へと「発展」させたような印象も(個人的には)得ました。それは、決して楽しいだけの冒険じゃない、苦しく悲しい心情も描かれていた『デジモン』のアニメシリーズの「らしさ」を大切にしたからこそのものだとも思えたのです。 それでいて、今作はシリーズの概念を根底から覆すような、衝撃の事実も明らかになります。しかし、それに屈することなく戦う主人公の“本宮大輔”と、その人間の仲間たちとデジモンたちの絆も描かれます。いかに苦しい事態に遭遇しても、それに果敢に立ち向かっていく友情の尊さが打ち出されているのも、「デジモンらしさ」でしょう。 いきなり今回の『デジモンアドベンチャー02 THE BEGINNING』から見ると、そのダークさとほぼほぼホラーな展開にびっくりすると思いますが、これらの『デジモン』のアニメシリーズを振り返ると、納得できる理由を分かっていただけたでしょうか。もちろん、実際に作品を見ると、より理解が深まるはずですよ。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の魅力だけでなく、映画興行全体の傾向や宣伝手法の分析など、多角的な視点から映画について考察する。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
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