世界のスパイ機関はどうか
ちなみに世界に目をやると、極秘行動を行うようなスパイ機関は、国の命令で活動しており、個人が自分たちだけで活動することはない。先進国なら国内にそうしたスパイ機関の存在を法律で規定し、国家の活動として行っている。そのために、税金から潤沢な資金を用意し、スパイや協力者の命も守るし、スパイにも人権が保証される。
一方で日本には、日本にいる外国スパイを監視や摘発するための防諜機関というのは存在している。カウンターインテリジェンスと呼ばれる活動だが、公安警察や公安調査庁、自衛隊の情報本部などが担っている。
彼らは、国内にいる外国スパイを日々、警戒する活動を行っている。ただこれらの組織は、『VIVANT』に出てくるような殺人も厭わないような「別班」とは対極にあると言っていい。
防衛省の幹部「できれば『別班』以外の名前にしてほしかった」
最後に、筆者が『VIVANT』と別班について話を聞いた防衛省の幹部のコメントを紹介したい。
「確かに、別班というスパイ機関が存在するかのような記事もよく目にするようになった。ただ、自衛隊の情報関係機関が、防諜(カウンターインテリジェンス)ではなく、諜報(スパイ)活動をしているかのように描かれているのに困惑している。別班は陸上自衛隊の組織ということなのに、海空などにも数多くの問い合わせが来ているのが実情で、防衛省内部では『もはや営業妨害だ』という声も出ているくらいだ。しかも、自衛隊の中からも別班に入りたいというようなことを言い出す隊員も出てきている。できれば『別班』とせずに、ほかの名前にしてほしかった」
こう見ると分かる通り、『VIVANT』に出てくるような危険な闇組織である別班は、残念ながら日本には存在していない。そもそもフィクションのテレビドラマの中の話を検証すること自体が変な話だが、ここまで話題になっている時点で『VIVANT』のスタッフはほくそ笑んでいるに違いない。
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。
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