無理やりPTAに入ったことにされて困っている人をなくしたい
調停について、モリサキさんは淡々と振り返ります。「別に『みんなで会費を取り戻そう』みたいなことは、私は特に望んでいません。ただ、私と同じように、無理やりPTAに入ったことにされて困っている人は、もうなくしたいなという思いはありました。大体の人は『おかしい』と思っていても、なかなか言いだせないと思うんですよね。この調停で、いちおう爪あとは残せたかなと思っています」
確かにそうでしょう。PTAのやり方に疑問を抱いている人はたくさんいますが、行動を起こす人は決して多くありません。
逆に「どうして、そこまでできたんですか?」と筆者が尋ねると、モリサキさんはちょっと考えて、「曲がったことが嫌い、なくらいですかね」とぽつり。納得の答えです。
PTAも任意の方向へ
モリサキさんの行動によって、PTAにも変化が出始めているようです。「今年の春、うちのPTAでは説明会のときに『PTAは任意ですが…』と言ってくれるようになりました。さらに最近は市内の小中学校に対し、個人情報の適切な取扱いについて教育委員会から通知が出ています。なので、多少は変わってきているかなと」
少々補足すると、旧来型のPTAでは、加入に際して何も説明を行わず「全員、必ず入らなければならない」と保護者に錯誤させていることがよくあります。でも最近は、入学式のあとPTAの説明をする際に、会長が「加入は任意です」と伝えるPTAが増えてきました。
ただ、実際は「任意です」のあとに「が、全員入ってもらいます」など、加入を強いるような言葉が続くことも多く、完全に任意とは言いがたいケースも少なからずあるのが現状です。モリサキさんのPTAも同様なので、やや惜しいですが、きっとこれからも少しずつ、よい方向へと変わっていくことでしょう。
今PTAの運営に携わっている会長や役員さんのなかには、「調停でPTA会費の返還を求めるなんて」と、反発を覚えた人もいるでしょうか。でも冷静に考えればやはり、これまでのようなやり方が通ってきたことのほうが驚きです。最近は、個人情報の不適切な取り扱いで校長が刑事告発されるケースも散見されます。
ごく当たり前の話ではありますが、会費を徴収するのであれば、まず本人にPTAに入るかどうか意思を確認し、入るという人からお金をもらう、というのが基本でしょう。
会員であると錯誤させたままお金をとるようなことさえしなければ、こんな調停や訴訟は通常起きませんから、どうかご安心ください。
(※注)2014年に熊本で起きたPTAの加入を巡る訴訟では、保護者が集金袋を使い現金で会費を納めていたことなどから「入会していた」とみなされました(一審は敗訴、二審で和解)。一方モリサキさんは学校に伝えた銀行口座から他の学校徴収金と共にPTAの会費を自動引き落としされてきました。
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この記事の執筆者:大塚 玲子 プロフィール
ノンフィクションライター。主なテーマは「PTAなど保護者と学校の関係」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。