そもそも入会の申込みをしていないし、会費を納めることに同意もしていない。なのになぜか、別の用途で登録した銀行口座から、勝手に会費が引き落とされている――。なんて話を聞いたら、大体の人は「え、それ詐欺でしょ?」と思うでしょう。
お気付きの方もいるかもしれませんが、そう、これはPTAの話です。入会届なしで保護者を会員として扱い、給食費等の口座から勝手に会費を引き落としてしまう、といったやり方は、PTAではわりとおなじみのものです。
最近は「このやり方は、さすがにマズイよね」と気付き、やり方を改めるPTAも増えているのですが、変わらないPTAもまだまだあります。PTAのアップデートは、学校や自治体によってどんどん差が開いている状況です。
それでも、ファーストペンギンはどこにでもいるものです。東北地方の小学校に子どもを通わせる父親・モリサキさん(仮名)は、PTA会長を相手に調停を起こし、これまでに引き落とされたPTA会費(部活動後援会費を含む)を全額返してもらったといいます。
どんな経緯だったのでしょうか。教えてもらいました。
そもそもPTAに加入していないはず
PTAのやり方には問題が多そうだな。そうはっきりと認識したのは、昨年度の役員決めのときでした。ある日モリサキさんの家に、見知らぬ保護者から「役員をやってくれませんか」という電話が、突然かかってきたのです。役員はできない旨を伝え「この番号をどこで知ったんですか」と尋ねると、「先生(学校)に教えてもらった」とのこと。学校がもつ個人情報が、保護者に無断でPTAに提供されていた形です。こういった個人情報の取扱いは、学校側にもPTA側にも問題があります。
思い返せばPTAには、子どもが学校に入ったときからうっすらと違和感はありました。入学式が終わったあと保護者たちは体育館に閉じ込められ、いきなり始まったPTAの説明会の場で、「あなたたちは今日からPTA会員です」と一方的に宣告されたのです。
でもモリサキさんはPTAへの加入を希望したこともなければ、入るかどうか聞かれたこともありません。そのPTAには、加入届がなかったのです。
ということは、そもそも自分はPTAに加入していないはずでは――。会員でもないのに勝手に会費を引き落とされてきたのだとしたら、そのお金は返してもらって然るべきだろう。モリサキさんはそう思い至ります。
そこでまずはPTAに、文書で会費の返還を求めましたが、応じてもらえませんでした。「協議して、また連絡します」と言われたまま音沙汰がありません。
「話し合いで解決できるなら」調停を申し立てたけれど
モリサキさんは、調停を起こすことにしました。はじめは少額訴訟を考えて裁判所に行ったのですが、そこで調停という方法があることを知り、まずは調停から始めることに。「話し合いで解決できるなら、そのほうがいい」と思ったのです。相手はPTA会長です。調停は、思いのほかすぐ終わりました。たった2回で、話がまとまったのです。
1回目は、調停委員がそれぞれの主張を聞き、2回目は双方の同席のもと、それぞれの主張を確認し、「折り合いをつけられますか?」と調停委員が聞いてきたのですが、モリサキさんは「できません」と答えました。
彼はこれまで引き落とされた会費の全額を返すよう求めていたのに対し、PTA側は、モリサキさんが「会員ではなかった」と認識した以降の分のみを返金する、と言ってきたからです。
「それなら少額訴訟をします」とモリサキさんが伝えると、先方は全額返還に同意して、調停は終了しました。(※注)
なお調書をまとめる際、PTA側は「この話を他言しない」という一文を入れることを求めてきましたが、これもモリサキさんは断りました。誰かに話すことは考えていませんでしたが、口止めされるいわれもなかったからです。
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