PTA委員の母親らを呼び出し長時間にわたって詰責
ところが育成会は、一郎さんが行ったこれらのルール変更を「とんでもないこと」と思ったようです。理由は、主に以下の3つでした。1)1人での防犯活動は危険だから、従来通りの2人1組でのパトロールは必須
2)ノートに書いて回さないと、ほかの人が参考にできないからオンラインは不可
3)見知らぬ者同士が知り合う機会が減るので、夫婦や友人で組を作るのは不可
ちょっとこれは、筆者が見ても首をひねらざるを得ません。それはまあ、1人より2人のほうがより安全かもしれませんが、筆者が知る限りPTAで行うパトロール活動は、1人で行うケースもよくあります。
一郎さんが自治体の担当部署に確認した際も、「1人での見守りも歓迎」という回答を得たそうです。
活動報告についても、ノートに手書きするよりオンラインで行うほうが、よほど確実でしょう。次の人だけでなく、大勢の関係者と瞬時に情報共有できますし、ノートを次の人に回す手間も省けます(腕章は残りますが)。
「見知らぬ保護者同士が知り合う機会」は確かに貴重ですが、パトロール活動でなくても機会は作れるでしょう。保護者同士、LINEやアプリでつながっておけば、好きなように連絡をとり合えますし、地区ごとに別途、お茶会などを開いてもいいはずです。
一郎さんからは「そもそも“私語厳禁”のパトロールでは、見知らぬ者同士が知り合う機会にならない」との指摘も。確かにその通りです。
ところが育成会は、一郎さんのやり方を支持したPTA委員の母親たちを呼び出して長時間にわたり詰責したため、委員らは泣いて帰宅することに。
後日、一郎さんと呼び出された委員たちが学校を訪れ、経緯を説明したところ、校長は驚いた様子でした。育成会やPTA本部は「一郎さんと一部の委員が勝手にやった」と言っていたのに、実際はほかの委員にも話を通していたことが、チャットの記録で確認できたからです。
その後もいろいろありましたが、最終的に、パトロール活動の在り方が自治体レベルで見直されることとなり、現在は幸い、改善の方向に進みつつあるということです。
父親たちも知らぬふりをしないで
PTAでは、ちょっとしたことを変えるのも、こんなに大変なのか……と怖くなってしまった人もいるかもしれませんが、念のため、これはかなりハードな例です。このケースで、もし「変えよう」と言い出したのが「班長」でなく、もっと「上」の「PTA会長」や「育成会会長」であれば、また話は違ったかもしれません。
ただ、こういった旧来の慣習が幅をきかせる団体で、「これまでのやり方を変えたい」と思っている一郎さんのような保護者が、全体の「長」に就けることはなかなかありません。
それでもやっぱり、こんなふうにやり方を変えようと奮闘してくれる人たちがいることを、筆者は心強いなと思います。
ただし皆さま、くれぐれも無理はせず。メンタルをやられそうなときは退会するなど、戦いから退くこともおすすめです(退会は退会で難しい場合もあるのですが)。
一郎さんは、世の父親たちに対し「もし妻がこんなふうに地域団体やPTAに悩まされていたら、知らんぷりせずに、声を上げてほしい」と話していました。
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この記事の執筆者:大塚 玲子
ノンフィクションライター。主なテーマは「PTAなど保護者と学校の関係」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。