どうする学校?どうなの保護者? 第2回

「PTAをなくす」は大変か。PTAを廃止した2人の元会長に聞いた“解散のリアル”

PTAの「解散」や「廃止」の動きが注目を集めています。PTAを解散するのには、実際のところどんな作業が必要で、どんな壁が立ちはだかるのか? この春「PTA解散」を経験した2人の元PTA会長に「解散のリアル」を聞かせてもらいました。

【連載:どうする学校?どうなの保護者?ーVol.2ー】

このところPTAの「解散」や「廃止」の動きが注目を集めています。ほんの数年前まで、PTAの解散など口にするのもはばかられており、たまに聞く解散事例も、名前や運営を改めて継続するものばかりでした。でも、ここ1、2年は「新たな組織をつくらずに、PTAをなくす」事例が、ぽつぽつ見られるようになっています。

よく「やめるのは簡単」と言われますが、本当でしょうか。ご存じの通り、PTAや学校などの組織は、前例踏襲に陥りがちです。何かをやめる決断を下せずに、どんどん“仕事”を増やしてしまう傾向があります。そんな「日本あるある」の組織を廃止しようというのは、むしろ難易度が高いことでは。

PTAを解散するのには、実際のところどんな作業が必要で、どんな壁が立ちはだかるのか? まさに2023年の春「PTA解散」を経験したばかりの、兵庫県明石市立幼稚園PTAの元会長・由夏さん(仮名)と、東京都立川市立柏小学校PTAの元会長・吉澤康貴さんに「解散のリアル」を聞かせてもらいました。
PTAの解散で1番大変だったことは?

お金や備品の処理を通して実感したこと

解散の実務として、まず考えられるのは残金の処理です。これは比較的シンプルでした。

由夏さんも吉澤さんも園や学校に「欲しいもの」を聞いて寄贈や寄付を行い、お金を使い切ったとのこと。PTAの銀行口座は解約。寄贈品を購入する際は、複数の会社に見積もりを取った点も共通です。由夏さんの園では「ぴったり使い切るまでの細かい調整」は、園にやってもらったそうです。

柏小PTAでは2年後に周年行事があるため、その費用として残金から30万円ほど学校に託し、残りを寄付に充てました。吉澤さんは「そもそも周年行事は自治体(市)が学校を祝うもの」と考えていますが、急に迷惑をかけないようにと、前回の周年行事の記録から割り出した必要最低限のお金を残したそう。こういったお金の使い方については、書面で臨時総会を行い、会員の承認を得たということです。

お金だけでなく、備品の処理作業も発生します。柏小PTAでは、まず役員さんたちで部屋を片付けましたが、手に負える量ではありませんでした。棚など大きな備品もいくつかあったため、最終的にはまとめて産業廃棄物として処分することに。残せばいつか学校に処分させることになってしまうからです。処理費用は約7万円。この出費についても、前述の書面総会で承認を得ています。

吉澤さんはPTA室の片付けをしながら「これまでのPTAの無駄遣い」を実感したといいます。

「役員さんも部員さんも『去年のこの時期にこれを買ったから、今年もこの時期にこれを買おう』と、次々と備品を買い足していきます。このときPTAの部屋に在庫があるかどうかを確認しないから、すでにあるものをさらに買い足してしまう。いろんな備品がたまりにたまった状態でした」

解散予定がないPTAでも気を付けなければいけない点です。PTAの部屋の片付けをした役員さんから、よく同様の嘆きを耳にします。すでにあるものを買わないことは、最低限のルールでしょう。

由夏さんのPTAでも、解散時に備品の片付けをしたところ、未使用のガムテープやボールペンなどが大量に出てきたため、幼稚園に寄付することに。そのほかのごみの処分は、幼稚園がやってくれたということです。

 

「地域の団体との関係」をどうするか

解散にあたって最も悩ましいのは、行政のサポート的な役割をしている「地域の団体」との関係かもしれません。

PTAはよく「青少年○○協議会」などの団体に参加を求められ、会長や役員さんが出席しているのですが、PTAが解散すればこういった団体に代表を出せなくなり、ほかのメンバー(自治会や他校PTAなど)から苦情を受けることが予想されるからです。

吉澤さんは2022年秋、あるWebサイトでPTA解散を公表して以来、全国のPTA関係者から数十件もの問い合わせを受けたそうですが、最も多かった質問は「解散の際、地域(団体)との関係をどうすればいいか?」というものだったといいます。

柏小PTAの場合、これまで地域の2つの団体に参加を求められてきました。1つは公民館の運営委員会。こちらは近隣3校のPTAが、持ち回りで保護者代表を出してきたそう。柏小PTAがなくなれば、残る2校PTAの持ち回りとなってしまいます。そこで吉澤さんは、ある提案をしました。

「ほかの2校のPTA会長に『柏小PTAがなくなったら、今後は2校の持ち回りでやってもらえますか? それとも私が公民館の運営委員会で、PTAからの保護者代表は撤退させてもらいますって言いましょうか?』と聞いたんです。そうしたら『ぜひ撤退すると言ってもらいたい』というので、そう言いました」

吉澤さんが運営委員会で発言した結果、公民館の運営委員会には、保護者代表は出なくていいことになりました。公民館の利用者は高齢者がほとんどで、小中学生の利用率はごくわずかであることをデータを基に示したところ、自治会などの人たちも「確かにそうだ」と納得してくれたそうです。

柏小の地域には、もう1つ「青少健(青少年健全育成会)」という団体もあります。こちらは持ち回りでなく、各校PTAから保護者代表が1名出るよう要請されていましたが、PTAがなくなればこれも柏小からは人を出せなくなります。

そこで吉澤さんは「もし柏小から青少健に保護者代表を出してほしいのであれば、青少健で手紙を発行して、学校に配ってもらってください」と伝えたそう。「そもそもPTAと青少健は別団体なのだから、おうかがいを立てないと解散できないようなものではない」と吉澤さん。言われてみれば、確かにその通りです。

このようにして柏小PTAは解散の道を貫いたのですが、少々書き添えておくと、次のような背景も影響したかもしれません。


>次ページ:柏小PTAが解散できたわけ
 

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