『君たちはどう生きるか』ヒットの鍵となるのはSNSか
何もかも明かされていない、不明確な状態で公開されることが確定的な『君たちはどう生きるか』がヒットするか否かで鍵となるのは、SNSなのかもしれません。他メディアでの情報がほぼない、それどころか映像が1秒たりとも明かされていない中で、評判や中身を少しでも知るには「そこ」しかありません。公開当日から、それが酷評にせよ絶賛にせよ「結局は映画館で見ないと分からない」事実から多くの人が映画館に引き寄せられ、大ヒットにつながる可能性は十分にあるとは思います。また、スタジオジブリ公式のTwitterアカウントは、比較的最近の2020年12月に開設されながらも、174万人を超えるフォロワーを獲得しています。スタジオジブリ作品は日本の配信サービスで提供されていませんが、だからこそ地上波放送時には話題を集めて高い視聴率を記録していますし、SNS世代の若者にも支持を得ているのは間違いありません。作品の画像が「常識の範囲内でご自由にお使いください」と無償提供されているのも、SNSやWeb記事やYouTube動画での発信を見込んでのものでしょう。
逆に、大コケにつながってしまう懸念は、今なお「宮崎駿監督の新作が公開されることにも気づいていない」人が多くいるかもしれない、ということでしょう。「予告編なし」「テレビスポットなし」「新聞広告もなし」の状態では、SNSに触れていない人には(SNSを使っている人にも)、映画の存在すら届いていない可能性もあります。いざ公開されてみれば「宮崎駿監督の新作なのにまったく盛り上がっていない」とネガティブな反応を読んでしまうこともありえます。
それでも、やはりどちらに転ぶか分からない
さらに、この『君たちはどう生きるか』の公開から1週間後には『ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE』、2週間後には『キングダム 運命の炎』と、宣伝が大々的に行われる強力なライバル作品も控えています。これらに対し、宣伝なしの宣伝手法を貫く『君たちはどう生きるか』がどのような興行の推移をたどるか、非常に興味深いものがあります。やはり結論としては、よく「ギャンブル」だと語られる映画興行の歴史において、『君たちはどう生きるか』は日本どころか世界的に見ても、他に類を見ない、とんでもない「賭け」であるということだと思います。一般観客に知られないまま大コケをしてしまうか、もしくは“宮崎駿”というただ1人の巨大なネームバリューの吸引力とSNS時代の時流に乗って大ヒットをするか、現段階では全く読めません。
「宣伝がない」ことは、かつてないサービスに?
そして鈴木敏夫プロデューサーは、先の動画内にて『君たちはどう生きるか』について「僕は面白いと思いましたよ」「よくあんなものを作るなと思いました」「信じられないですよ、本当に」と、そのクオリティのほどがうかがえる発言もしています。さらに「今まではジブリを運営しないといけなかったけど、もういいかな」と、今後を見据えないからこそ、この賭けができたのだと推察できるような言葉も投げかけていました。さらに鈴木敏夫プロデューサーは「今は情報過多で(内容を明かしすぎる予告編は)お客さんから本当に面白いところを奪っているようなもの」「今までウン10年やってきたこと、今までやってきた大宣伝をやめてみる。それがお客さんへのサービスになる」とも語っています。
確かに、映像が予告編でも1秒たりとも見られない、前代未聞の宣伝がされた映画だからこそ、リアルタイムで追って劇場で見ることで、2度とはない体験ができることも間違いありませんし、それはかつてない送り手側からのサービスといえるでしょう。公開を楽しみにしています。
ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「日刊サイゾー」「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の魅力だけでなく、映画興行全体の傾向や宣伝手法の分析など、多角的な視点から映画について考察する。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
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