『シン』シリーズも“情報の制限”が成功しているけれど……
映像面での情報の少ないからこそ、ファンの憶測を呼びヒットを導いた例には、実写『シン』シリーズもあります。いずれも『エヴァンゲリオン』シリーズの庵野秀明が関わっており、日本が誇るそれぞれの実写特撮のネームバリューも存分。特に『シン・ゴジラ』は特報映像から断片的な情報しか分からないにもかかわらず、それがやはり『THE FIRST SLAM DUNK』と同様にファンの議論を呼び、本編でのサプライズになったおかげもあってか、興行収入82.5億円の大ヒットを記録しました。
ただ、続いての『シン・ウルトラマン』は米津玄師の主題歌という大きな話題はあったものの、興行収入は44.4億円。『シン・仮面ライダー』は多数の週替わりの来場者特典があっても、興行収入は23.2億円を超えた程度。それでも実写邦画としては大ヒットと言える数字ですが、公開前に特報と予告編の情報が制限された実写『シン』シリーズは、興行収入がほぼ半減し続けているのも事実です。
ちなみに、『シン・仮面ライダー』と『君たちはどう生きるか』は、ポスタービジュアルの構図が非常によく似ていることも話題となっていますが、これは果たして偶然か、それとも狙ってのことなのか……気になります。
それでも、やはり『君たちはどう生きるか』とは事情は異なる
また、同じく庵野秀明による、アニメ映画の『シン・エヴァンゲリオン劇場版』もやはり特報と予告編での情報が制限されていました。しかし、こちらは四半世紀の時を経たビッグコンテンツの完結編であり、コロナ禍での度重なる延期で多くのファンを待たせ続けたこともあってか、月曜日公開という異例の措置ながら興行収入102.8億円の大ヒットに。実写、アニメ映画の『シン』シリーズはそれぞれ、基となる作品のファン層の厚さが違うので一概には言えませんが、ネームバリューのある作家&作品で、映像面の情報を制限する手法は確かに有効である一方、必ずしも大成功するわけではないともいえそうです。
なお、映画『君たちはどう生きるか』は、1937年刊行の超ロングセラー書籍からタイトルが取られており、2017年刊行の漫画版も200万部超えのベストセラーになるなど、ある程度のタイトルの知名度があります。
しかし、前述した動画で鈴木敏夫プロデューサーが「(内容は)何の関係もないですよ」と明言している通り、完全にオリジナル作品であることは確定しています。少なくとも、映画『君たちはどう生きるか』は、原作となる物語が明確に存在する『THE FIRST SLAM DUNK』や『シン』シリーズとは異なる特徴があるのです。
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