裁判なら、今回の謝罪は「パフォーマンス」とみなされる可能性がある
一連の謝罪について、エンターテインメント関連の法務に詳しい尾崎聖弥弁護士に意見を聞いた。尾崎弁護士「今回の謝罪について多くの人が『納得できない』と回答したのは、そもそも解明されていない事実があまりに多いからだと思います。裁判を例に挙げると、裁判官を『納得させる』謝罪にはルールがあります。
それは、
(1)真実をありのままに話し
(2)それについて自分にどのような反省点があったのかを認め
(3)今後同じ過ちを繰り返さないためにどうするのかを約束する
という3点です。この3点のうち、1つでも欠けていれば、それは裁判上での謝罪のパフォーマンスとみなされ、裁判官を納得させることはできません。
今回のジャニー喜多川氏による性加害問題に当てはめてみると、最大の問題点はそもそも(1)の真実が不明確だということです。
真実をあいまいにしたまま謝罪しても、何を反省するのか、将来に向けて何を約束するのか、という謝罪の全てがあいまいになってしまうので、聞く人を納得させることはできません。
『知らなかった』ではなく、(もちろん被害者の名前を出したりしてプライバシーを暴露する必要はありませんが)喜多川氏による性加害は実際にあったのかどうか、性加害はどれくらいの期間、どのような方法で、どれくらいの人数に対して行われていたのかというような点については、客観的な真実を解明しなければ、その謝罪を聞いても多くの人は納得しないでしょう」
ジャニー喜多川氏が「存命」でも、その供述を重要視するべきでない理由
尾崎弁護士「現在、犯人として名指しされているジャニー喜多川氏はすでに亡くなっていますが、そもそも、仮に喜多川氏が存命であったとしても、渦中の人である喜多川氏による供述は重要視するべきではありません。なぜなら、本人の供述を重要視しすぎると、例えば『袴田事件』のように、その供述が強制されたものだった場合、間違った判断をしてしまうことになるからです。喜多川氏による性加害疑惑についても、喜多川氏による供述以外の証拠から真実を明らかにするべきだと考えます。ここで重要になるのが第三者委員会の設置です」
第三者委員会は、“無理やり”聞き取りをするものではない
尾崎弁護士「会社や学校のような閉鎖社会において不祥事が生じた場合に、その人間関係のしがらみに身を置く者同士で『調査』をしても、真実が明らかになる可能性は低いため、外部の専門家で構成される第三者委員会に調査を依頼することが重要です。警察のような強制力を持つものではありませんので、調査を受けたくない人に対して無理やりに聞き取りをするものではありません。第三者委員会によって明らかにすべきなのは、喜多川氏による性加害があったかどうかだけではなく、それを会社の中で知っていた人はいるのか、なぜそれを止めなかったのか、むしろ知っていながら手助けしていた人がいるのではないかということ。そこまで調査をする必要があります。
今後、ジャニーズ事務所が問題にきちんと向き合うための方針として、第三者委員会の設置が急務であるのではないでしょうか」
「社長の退任」「名前を変えた方がいい」今後の対応に最も望むこと
アンケート調査で、性加害問題に対するジャニーズ事務所の対応に最も望むことを聞いたところ、世代を問わず多くの人が「第三者委員会の設置」を強く望んでいることが分かった。さらに「社長の退任(29歳女性)」「責任者の辞任(45歳女性)」「ジャニーズの名前を変えた方がいい(50歳男性)」など、経営の根幹に関わる部分から立て直しを図るべきでは、という声も上がっている。
問題収束の一手となる、記者会見や第三者委員会の設置は実施されるのだろうか。日本のエンターテインメント業界だけでなく、社会全体にも影響を与えるジャニーズ事務所の今後の対応に注目したい。
毒島サチコ プロフィール
愛媛県出身のライター・インタビュアー。緻密な当事者インタビューや体験談、その背景にひそむ社会問題などを切り口に、複数のWebメディアやファッション誌でコラム、リポート、インタビュー、エッセイ記事などを担当。
取材協力:尾崎聖弥 プロフィール
第一東京弁護士会。エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク所属。企業に対するコンプライアンス研修などを担当している。
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