子どものサッカーに必要以上に踏み込んでしまう親は多い
ならばと、興味本位で聞いてみる。プロサッカー選手の息子は、幼い頃からトッププレーヤーである父の指導を受けて育つものなのか? だとすれば、それだけで大きなアドバンテージだ。「僕の場合、長男と次男とは遊びでボールを蹴ることはあっても、指導のようなことはしませんでしたね。僕も現役でしたし、どうしてもプレーヤー目線での教え方になってしまうので。自分ができることを、子どもの年齢にまで下りて、分かりやすく言語化して伝える術を知らないと、教えられている方も面白くなくなるんです。ただ、引退した今は、指導の現場を経験して引き出しも増えてきたので、三男には少しずつですが教えるようになりましたね。上の2人からすると、自分たちは何も教えてもらえなかったって思うかもしれませんけど(笑)」
「指導の現場に出るようになって思うのは、父兄の方々が必要以上に踏み込んでしまうケースが多いなってことなんです。子どもは失敗をする生き物ですから、そこで大人が口出しをしても、マイナスでしかありません。それはサッカーの経験があろうと、なかろうと同じです。子どもが気持ちよく、楽しくプレーできるように、寄り添うように導いてあげることが、何よりも大切だと思いますね」
親と指導者の共通点
寿人の夢は、指導者として優秀なストライカーを育てることだという。では、そこに子育てと通じる部分はあるのだろうか。「根本は、たぶん同じだと思います。親は子どもに、指導者は選手に、いろんな選択肢や情報を与えてあげないといけませんが、最終的には自分で決断し、自分で責任を負えるようになってほしいという思いに変わりはありませんから。特にストライカーはそうです。チームメイトがつないできてくれたボールをゴールネットに入れるという仕事は、全て自分の決断に委ねられ、その結果に対して責任を負わなくてはならないんです」
いかにも点取り屋らしい言葉だ。その決断の積み重ねが、Jリーグ歴代最多の220ゴールという偉大な記録につながっている。だが、寿人のようなトップアスリートになれるのは、ほんの一握りだ。やはり持って生まれた才能がなければ、どんなに良い環境を与えてもトップ・オブ・トップにはたどり着けないのではないか。そんな疑問を、寿人は即座に否定する。
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