アスリートの育て方 第1回

子どものために中華料理店を畳んだ父の決断|元サッカー日本代表・佐藤寿人が両親に感謝しているわけ

アスリートが「どう育てられたのか」「どう子ども育てているのか」について聞く連載【アスリートの育て方】の第1回。Jリーグの歴史の中で最も多くのゴールを獲得し、双子の兄と共に日本代表に選ばれた佐藤寿人が、どのような家庭で育ったのか、話を聞いた。

【連載:アスリートの育て方 ーVol.1ー】

1993年5月15日に産声を上げたJリーグが、2023年で節目の30周年を迎えた。
 
その歴史の中で、これまで誰よりもゴールを奪ってきたのが、身長170センチの小さなストライカー、佐藤寿人だ。2020年シーズンを最後に現役生活にピリオドを打つまでに、Jリーグで積み上げたゴールは歴代最多の220。トップカテゴリーのJ1リーグに限っても歴代3位の161得点をマークした。
 
決して体格に恵まれず、ユース時代も特別に目立つ選手ではなかったという彼は、いかにして日本を代表するまでのストライカーになれたのか――。
 
「とにかく感謝しかないですね」
 
子どもの成長のために、全てをなげうってくれた両親、とりわけ父・政人の熱意と大きな決断がなければ、Jリーグの歴史に「佐藤寿人」の名は刻まれていなかったかもしれない。
 

お金と時間は全て僕たちのために……

佐藤寿人さん兄弟は、なぜ双子で日本代表に選ばれることができたのか、どんな家庭環境で育ったのか、本人に話を聞いた(画像は佐藤寿人さん提供、右から父、友人、勇人さん、寿人さん、後列に母と妹さん)

1982年3月12日、佐藤寿人はのちに同じくJリーガーとなる二卵性双生児の兄・勇人とともに、この世に生を受けた。両親は埼玉県春日部市で中華料理店を営み、朝から晩まで忙しく働いていたが、わずかな時間も惜しんで子どもたちと過ごす時間を大切にしてくれたという。
 
「お金と時間は、全て僕たちのために使ってくれるような両親でした。決して裕福ではありませんでしたが、時間を作っては、夏はキャンプ、冬はスキーと、いろんなところに連れて行ってもらった記憶があります。子ども心に、父も母も本当にいつ寝ているんだろうなって思っていましたね」
 
学生時代に父は野球、母は陸上をやっていたこともあって、スポーツへの理解が深かった両親は、双子の兄弟が3歳のときにサッカーボールをプレゼントする。当時サッカーは今ほどメジャーではなかったが、ボール1つあればできるスポーツは、双子の兄弟にとってうってつけの遊びだった。
 
その後、小学1年生から地元のサッカークラブに入った兄弟は、学校から帰ると母親が仕事の合間に作っておいてくれたおやつを頬張り、また練習に出かけていく毎日を過ごしていた。
 
「父親が唯一ゆっくりできるのは、お店が休みの日曜日だけなんですが、週末はたいてい僕たちの試合があるので、その送り迎えをしてくれて。それだけじゃなく、4級審判の資格を取って、試合のレフェリーまでやっていたんですよ(笑)」
 

人生を動かした父の熱意と大きな決断

そして、兄弟が12歳になったとき、父・政人は思い切った決断をする。ジェフユナイテッド市原(現・ジェフユナイテッド千葉/以下ジェフ)のジュニアユースチームへの入団テストを2人に受けさせ、寿人が合格すると(勇人も4カ月ほど遅れて入団)、中華料理店を畳んで埼玉から千葉へ引っ越すのだ。
 
きっかけは、テレビ。ちょうどJリーグがスタートするタイミングで、たまたまジェフのアカデミー(育成機関)が紹介されていたテレビ番組を見て心を動かされ、一方的にクラブに連絡を入れたという。
 
「もちろん、最初は断られたらしいですよ(苦笑)。それでも諦めずに何度か電話を入れると、『そんなに言うんなら』って向こうが折れてくれて。しかも、本来だったら300人くらい集まるセレクションを受けなくちゃいけないのに、引っ越しのタイミングがあるからって、半ば強引にテストの機会を設けてもらったんです」
 
もしこのとき、にべもなくジェフの担当者に断られていたら……。プロサッカー選手、佐藤寿人は生まれていなかったかもしれない。

「本当に、父の熱意と決断が、僕の人生を大きく動かしたと思いますね」

>次ページ:より良いサッカー環境を求めて引っ越し、そして父はサラリーマンに
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