満たされない環境がサッカーへの欲を生む
長男が生まれたのは、ベガルタ仙台に在籍していた2003年。その後、広島、名古屋(名古屋グランパス)、そしてユース時代を過ごした千葉(ジェフユナイテッド千葉)に戻って引退するまで、子どもたちは寿人の移籍に伴い、環境の変化を経験している。「引っ越した先で、また一から人間関係を作らなくてはならないんですから、上の2人はきっと大変だったと思います。でも、そうした中で自分を表現し、周りの人たちを理解する力が自然と養われたとも思うんです。小学生の頃は結構やんちゃだった次男も、名古屋から全く知らない千葉の中学への転校を機に、すごく成長しましたからね」
サッカーについても、同じことが言えるという。全てを満たしてあげることがいいわけではない、満たされない環境が、サッカーへの欲を生むと。
「長男と次男が小さい頃は、僕がまだ現役で、周りにはいつもサッカー選手がいて、毎週のように試合を見られる環境がありました。身近にサッカーがある環境が当たり前だったんです。でも、三男は違う。僕はもう引退して、気軽にサッカー選手にも会えない。そうすると、ボールを蹴りたい、練習がしたい、試合がしたいっていう欲が、どんどん高まっていくんです。雨が降ると、よく上の2人は『今日は練習休み?』って聞いてきましたけど、三男は雨が降ってもお構いなしですからね(笑)」
サッカーを通して「壁を乗り越える力」を身に付けてほしい
とはいえ、長男と次男も父の背中を見て育ち、それぞれ大学、高校までサッカーを続けてくれていることは、寿人も「素直にうれしい」と言う。ただ、自身と同じように、息子たちにもプロを目指してほしいのかと問えば、決してそうではないようだ。「もちろんプロになって、そこで活躍できればいいですよ。でも正直、プロうんぬんよりも、とにかく一生懸命にサッカーと向き合って、そのプロセスでいろんなことを感じ取ってくれるだけでいいんです。スポーツの良いところって、努力した分に見合った結果が出ないことだと思うんですよね。理不尽なことの方が圧倒的に多いですし、そこで1度立ち止まって、どう壁を乗り越えるべきかを考える。社会に出たら、それこそ自分の思い通りにならないことがほとんどですからね。そこでしっかりと考えられる力を、サッカーを通して身に付けてくれればいいなと思っています」
>次ページ:指導者になって思う。父兄の方々は……