世界を知れば日本が見える 第20回

「ChatGPT」のユーザー数が世界TOP3に入る日本だが……使う前に知っておくべき事実

「ChatGPT」が話題だが、実は既にその危険性も指摘されている。実際に何が危険で、どんな懸念が噴出しているのか整理してみたい。

ChatGPTに入力したデータはどうなるのか

ChatGPTとやりとりしたデータは大丈夫?(画像はイメージ)

ChatGPTでは、ユーザーが質問やデータを打ち込むと、そのやりとりはAIに組み込まれて機械学習に使われていく。ところが、現時点ではそのデータが安全に保存されている保証はない。事実、OpenAIはメディア報道を受ける形で、3月24日にクレジットカード番号や住所などユーザーの個人データが漏れてしまったことを認めている
 

先日、インドのセキュリティー企業関係者と話をした際に、こんなことを言っていた。「GPT-4に、あるIPアドレス(インターネットのアドレスのようなもの)について危険なアドレスかどうかを質問したら、『分かりません』という回答だった。だがその10分後に同僚が同じ質問をしたら、『危険なアドレスという見方もあります』と答えてきた。自分の質問がすぐに回答に反映されているようなので、使用にはまだ注意が必要だと思い知らされた」
 

そう考えると、ChatGPTとのやりとりやビジネスに組み込んでいくと、ChatGPTに吸収されたデータが流出したり、他で使われたりする可能性がある。これについてはまだOpenAIを巻き込んできちんとした議論が追い付いていないのが実態だ。
 

世界の動きは

現在、世界的にはコンピューターが収集するデータやプライバシー問題、セキュリティー保護などを求める方向で動いている。ChatGPTが各国で勝手にユーザーの情報を収集してビジネス(有料会員を募ったり、ビジネスへの組み込みは始まっている)として使っていくことになれば、そのデータの所在と利用する権利の問題になってくる。例えば、中国では外国企業が国内で情報を収集すれば国外に出すことを禁じているが、そういう規制は国ごとに変わるし、デジタル税などの問題にもなっていく。
 

もう1つ触れておかなければいけないのが、情報操作の問題だ。ChatGPTはそのソースコードを公開しておらず、AIがどのような判断でユーザーに提示しているのか不透明だ。ただOpenAIは米マイクロソフトなどが投資で関与していることから、むちゃくちゃなことはしないだろうが、ただ都合の悪い情報を操作できなくはない――。そんな懸念もある。
 

こう見ていくと、ChatGPTに課題はまだまだ多い。日本を訪れたOpenAIのアルトマンCEOは、日本のみならずインドなども訪問する「世界ツアー」に出ている。「SimilarWeb」でChatGPTのユーザー数を見ると、トップはアメリカだが、2位はインド、3位は日本と続く。
 

「SimilarWeb」で見たChatGPTのユーザー数が多い国別ランキング

ただこのツアーは筆者が見る限り、プロモーションやAIの進展というよりも各国の不安や、潜在的な反発を回避し、「調整」する側面が大きいように感じた。


山田 敏弘 プロフィール
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。

Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル


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