海外から眺めてみたら! 不思議大国ジャパン 第11回

日本で子育てしたら「気疲れする」→したくない。海外在住日本人が思う、子育て環境としての限界

日本でたびたび巻き起こるベビーカー論争ですが、日本における子育て世代や母親たちへの風当たりの強さは何に起因するのでしょうか。海外に暮らしながら日本を見ると、日本社会特有の難しさを感じます。

「周りに迷惑をかけてはならない」という呪縛教育

他に言われているのが、「人に迷惑をかけてはならない」という日本人の美徳の代表ともいえる考え方が、呪縛となっているという説です。確かに、今回の大山さんへの批判コメントを読んでいると、何かと周りに迷惑をかけがちなベビーカー連れの母親たちは、問答無用でマナー違反を犯す存在と見なされてしまっているような気がします。


例えば日本の道徳の教科書を見ると、小学校1年時からいかに相手の心の機微をおもんぱかり、自己を周囲に合わせて社会規範を守るかが、手を変え品を変え、繰り返し手ほどきされています。そしてこの傾向は学校だけでなく、家庭や地域、その他のあらゆる場でも見て取れ、まさに国を挙げた徹底教育といっても過言でないのでは。
 

しかし、日本人が幼少時よりこの強烈な呪縛にとらわれながら日々生きていることは、海外に出て、外国人たちの空気読まない、行間読まない、忖度しない、人に迷惑かけても気にしない、日本人から見ると忌むべき自己中この上ない気質に直に触れて、初めて客観視できるというもの。
 

一向に着地点の見つからないベビーカー論争の原因

昨今では海外経験のある人も増え、「外国ではベビーカー連れで外出しても、周りの他人たちが優しく手助けしてくれる、それに比べて日本は……」といった議論が勃発しがちです。確かにヨーロッパではキリスト教義の「あなたの隣人をあなた自身のように愛せよ」という理念が根底にあり、弱者や困っている人(ベビーカー連れの母親含む)を見たら、尻込みせずに助けの手を差し伸べる傾向にあります。

スイスの路面電車内。双子用のベビーカーが入っても余裕のスペースで、左奥のピンクのダウンを着た女性の前方にも車椅子やベビーカーが設置できるバリアフリースペースが設けられている(筆者撮影)

確かに単純にヨーロッパの状況と比較すると、困難に直面しているベビーカー連れの母親を総じて助けようとしない、もしくは明らかに嫌悪感をもって接する日本人は、いかにも冷酷非情に見えます。
 

しかし突き詰めて考えてみれば、今まであれほど「人に迷惑を掛けるな」と刷り込まれ、迷惑を掛けた人間を袋叩きにするカルチャーに身を置きながら、急に「ベビーカー連れの母親に優しくできないのは心が狭い」と手のひらを返したように詰められたら、反発を覚えてしまうのも仕方がない気もします。
 

ここ10年ほど、外国の例を引き合いに出したベビーカー論争は相変わらず激しく、まったく終息の兆しが見えません。これは単純に表面的なことを見比べても解決しないのではと、今回、色々と思いを巡らせてみました。
 

住環境の問題にせよ、我々を呪縛しかねない教育方法にせよ、思いのほか根が深そうなテーマですが、現世代をストレスから解放し、次世代をつつがなく育てていく上でも、みんなで頑張って解決を図っていくことができたらと願っています。

「令和2年国勢調査 人口速報集計結果」(総務省統計局)


【おすすめ記事】
双子ベビーカー“乗車拒否”で賛否……「人に迷惑をかけてはいけない」という価値観に潜む生きづらさ
なぜ? 電車に乗り込むと“豹変”する日本人…欧州在住の日本人が久々の帰国で驚愕した3つのこと
早朝6時、快適なはずの車内で起こった珍事件とは? 駅&電車内の「迷惑行為ランキング」も…
「寒くないのか?」と外国人が不思議に思う、日本人の防寒ファッションに“足りない”もの
レディーファーストは「モテ狙い」「スマートに振る舞う自分に酔ってるだけ」と主張する日本人の勘違い
 

Lineで送る Facebookでシェア
はてなブックマークに追加

連載バックナンバー

Pick up

注目の連載

  • 世界を知れば日本が見える

    日本にとっても他人事ではない「中国スパイ」の脅威。フィリピン元市長の「なりすまし事件」から考える

  • どうする学校?どうなの保護者?

    【変化するPTA】学校に頼らない「PTA会費」の集め方はなぜ大事? 保護者以外からも“寄付”が可能に

  • ヒナタカの雑食系映画論

    『きみの色』がもっと尊くなる5つのポイント。あえてストレスを避けた「選択を肯定する物語」である理由

  • 海外から眺めてみたら! 不思議大国ジャパン

    日欧の「給食指導」比べてみたら……日本は「周りに迷惑をかけない食育」になっていないか?