双子ベビーカー“乗車拒否”で賛否……「人に迷惑をかけてはいけない」という価値観に潜む生きづらさ

公共交通機関におけるベビーカートラブルは枚挙にいとまがない。「人に迷惑をかけてはいけない」といわれ育った日本人は、他人の迷惑行為に対しても手厳しい一面がある。「助けられて当然という顔をするな」という声も……。

バレーボール女子元日本代表でスポーツ解説者の大山加奈さん(38歳)が、双子用ベビーカーで路線バスに乗ろうとしたところ、乗車を拒否されたとSNSで公表、賛否両論を巻き起こした。

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子育て経験者は「わかる。ベビーカーで公共交通機関を利用しなければならないときもあるけど、常に『すみません』『ごめんなさい』を連発していた。どうして世の中に謝り続けなければいけないんだろうと思いながら」と当時を振り返る。
 

一方で、同じ経験者でも「私は迷惑をかけないようにしていた」と胸を張る人も……。いずれにしても、「生きづらい世の中」であることを露呈している発言だ。
 

「感謝と思いやり」というけれど

ベビーカーで移動している母親や車いすの人、はたまた重い荷物を持って階段を上ったり降りたりせざるを得ない高齢者などなど、ひとたび外に出れば多くの「困っている人」に出会う。元気な誰かがちょっと手を差し伸べれば済む話なのだが、「助けられて当然という顔をするな」という声があがる。


「以前、母とアメリカに旅行したことがあるんです。当時、母は70歳くらい。ホテルに到着したのですが、下がじゅうたんでなかなかキャリーバッグが動かない。そこへたまたまやってきたビジネスマン風の若い男性が『フロントまで運ぶよ』と持ち上げ、歩調を合わせて運んでくれました。そしてフロント前でさっと身を翻して去っていった。親切だなあと思いました」(40代女性)
 

「ドイツで見かけた光景です。電車のドアの近くに板が置いてあって、車いすの人が乗り降りするときは気づいた乗客がその板でホームと電車を橋渡しする。車いすが乗り込んだら、乗客はその板を折りたたんで元の位置に置く。日本みたいにいちいち駅員が来たりしない。あれには驚きました。聞くと、小学生のころからそういう訓練を学校で受けているとか。誰もがなにげなくやっているんですよ。こういう公衆道徳が行き渡っていると、車いすの人だって行動範囲が広がりますよね」(30代女性)
 

そこには、「人に迷惑をかけてはいけない」という価値観はないように見える。あるいは、その程度のことは「迷惑」ではないのかもしれない。
 

助けたほうは当然のように振る舞い、助けられた人は笑顔でお礼を言う。感謝しろだの思いやりをもてだのと改めて言うようなことではなく、ごく普通の日常の風景にしか見えなかったそうだ。
 

必要以上に他人との距離を置く風潮

人が集まればおしゃべりが始まる。かつて日本もそんな風景があった。
 

「バス停にいれば、知らないおばちゃんが話しかけてくる。そんな下町で育ったんですが、今はそういうことがなくなりましたね。誰もがむっつり黙って、みんながスマホをいじってる。ときどき昔を思い出して、寂しいなあと思うことがあります」


そう言うのはユリコさん(50歳)だ。最近の都会では、知らない人と話すことはめったにない。スーパーでもコンビニでも誰とも話さないで済んでしまう。
 

「私はあえて話しかけるようにしていますけどね。地元のコンビニなんて毎日のように行くから、自然と店員さんと顔見知りになるでしょ。そうしたら挨拶するようになるし、多めに買っちゃったみかんをひとつあげたりして。必要以上に親しくならなくてもいいんです。誰かとほんの些細な交流をもつ。そういうことが日常にあるかどうかで気持ちが違ってくると思うんですよ」
 

人が並んでいたら、「何に並んでいるの?」と聞いてみる。困っている人がいたら、声をかけてみる。
 

「ただのおせっかいだと思うけど、見て見ぬふりはしたくない。先日も駅の階段でキャリーバッグを持った高齢女性が階段を降りられずに困っていたんです。ただ私、腰を痛めていて自分が助けられる自信がなかった。だから階段を降りようとしていた若い男性に、『悪いけど、あの方の荷物を持って降りてくれない?』と聞いたら、いいですよと気軽に持っていってくれました。その女性と私、ふたりでありがとうと言ったら、『いいえー』と男性も笑ってくれた。いい笑顔でした。おそらく、みんなきっかけがないだけだと思う。声をかける人がいたら、親切にしてくれるはず」
 

だから恐れることなく、人に声をかけ続けると彼女は言う。無視する人も断る人もいるかもしれない。それでも「おせっかいおばちゃん」を自認していこうとユリコさんは考えている。こういう人が増えたら、ほんの少し、誰かがその日、温かい気持ちになれるかもしれない。こんな世知辛い世の中では、そういったささやかな親切が人の気持ちを変えていくことになるのではないだろうか。

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