——帰国を決断されたのはどのような理由からだったのでしょうか?
1つは、息子がサッカーを本格的にやりたいと言うようになったことです。マレーシアでも現地のクラブチームなどを探したのですが、本人が望むレベルの環境を見つけられませんでした。日本のほうが本格的に取り組める環境があると判断して、いったん戻ろうと決めたんです。もう1つは、学費負担の問題です。先ほども触れたとおり、円安と現地の物価上昇という2つの圧力で、インターの学費自体も毎年上がり続けていました。家族3人での教育移住をこの先も続けるのは、現実的に厳しいラインに入ってきていたんです。
もともと、移住前から「2〜3年程度」という期間を想定してはいました。最初から長期定住ではなく、ある程度のところで日本に戻ることが前提の移住。なので、計画通りといえば計画通りだったとも言えます。
——2026年2月に帰国されたとのことでしたが、お子さんたちのその後の学校生活はいかがですか?
4月から、息子が新小6、娘が新小5として、広島県内の小学校に通い始めました。引っ越しの関係で、移住前に通っていた学校とは別の小学校に編入しています。
日本の学校生活への復帰は、思った以上にスムーズでした。ただ、漢字だけは少し大変そうにしていますね。マレーシア滞在中も、いずれ帰国することは前提だったので、家庭で日本語の本を読ませたり、漢字ドリルに取り組ませたりはしていました。
それでも、3年半のブランクを完全に埋めるところまではいかなかったようです。日々の学校生活のなかで、徐々に慣れていければいいかなと考えています。
——最後に、これから教育移住を検討されているご家族へ、アドバイスをお願いします。
教育移住と聞くと「すごく大変そう」「自分にできるのかな」という不安が先に立つ方も少なくないと思います。もちろん、大変なことはどうしても発生してきます。そのうえで、実際には意外と行ってみたらどうにかなることもたくさんありました。それが、実際に3年半を過ごしてみた結果として、一番伝えたいことかもしれません。
仮に予定より短い期間で帰ることになったとしても、その間に得られる学びは親子ともにあるはずです。完璧に準備してから動こうとせず、一度トライしてみてほしいなと思います。
そのうえで、注意点を挙げるとすれば、英語が日常の環境に子どもが合うかどうかは、実際に行ってみないとわからないことでしょうか。これだけは、どれだけ事前にリサーチしても見えてこない部分です。私たちもそれを含めての挑戦だったと、今は感じています。私たちの場合も、すべてが計算通りに進んだわけではありませんでした。
不安や迷いは尽きないかもしれません。それでも、興味があるならば、機会を逃さず一歩を踏み出してみてほしい。3年半を経たいま、心からそう思います。
取材後記
取材のなかで印象的だったのは、山縣さんの「即決」の裏側にある考え方です。4カ月でマレーシアへ渡る──。一見勢い重視の物語に映りますが、判断を支えていたのは、「完璧な準備がそろうのを待っていたら、踏み出せない」という割り切りもあったはずです。3年半で子どもたちに残った「自分を持つ強さ」も心に残りました。宗教も国籍もばらばらな環境のなか、相手をリスペクトしながら「自分は自分」という芯を持つ。言葉でなく、日々の暮らしのなかで自然と身につけたという点が、多文化環境ならではの学びです。
一方、「日本の物価の3分の1」という通説が円安と物価上昇で通用しなくなったエピソードは、情報を常にアップデートする重要性を教えてくれます。これから検討される方にとって、山縣さんの振り返りは貴重な道標になるはずです。



