「怖さ」のために鑑賞を控えるファミリー層もいる? 具体的にはどれくらい“怖い”のか
もう1つ、懸念点としてあげられるのは、「かわいい映画だと思ったら怖かった」といった感想が多く届いていることです。SNSでは「東野圭吾や湊かなえの小説のような後味」、はたまた「イヤミス」を連想したといった大人の意見があるほか、「途中で幼児が『怖い、もう出たい』と泣き出した」「館内が明るくなった瞬間に女の子が悲しそうに声をあげて泣いていた」という声も寄せられています。 そのため、「怖い(悲しい)思いを子どもにさせたくない」という理由で本作の鑑賞を控える親御さんも少なくないと予想されます。
『映画ちいかわ』は血が飛び散るといった直接的な残酷描写は避けられています。それでも、確かに(特にエンドロール後の最後の最後のシーンで)ショッキングな事実を「想像させる」場面があるため、お子さんはもちろん大人でも、過剰に精神的なダメージを受けてしまう可能性はあるでしょう。
『ちいかわ』は子どもにも絶大な支持を得ていますが、もともとは13歳以上を対象としたTwitter(現X)で連載されていた、ある程度は大人向けに描かれた作品であることを念頭に置いてもいいかもしれません。
具体的な怖さのレベルをネタバレなしで説明するのは難しいのですが、個人的には『クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険』のように「恐怖の対象が襲いかかるのに意思が通じ得るからこそむしろ怖い」上に、若年層に流行した「意味がわかると怖い話」や「水平思考クイズ」のような、「想像するからこそ怖い物語」という印象がありました。 その「意味がわかると怖い話」かつ「水平思考クイズ」の代表である「ウミガメのスープ」の話が大丈夫であれば、今回の『映画ちいかわ』も楽しめる可能性は高い……とも言えますが、それがやはり「残酷な出来事を想像させる物語」であるのは事実であり、子どもに触れさせたくない、という親御さんの意見もまた正当なものだと思うのです。
怖さも含めて「高評価」の理由になっている
一方で、『映画ちいかわ』は作品の質の高さにより高評価を得ており、また関連作品をまったく知らなくても楽しめるという間口の広さもあるため、ただでさえ社会現象級だった『ちいかわ』のファン層以外への広がりも大いに期待できます。映画.comでは3.8点、ファン向けの作品が高評価になりやすいFilmarksでは4.2点とハイスコアで、著名人も続々とSNSに感想を投稿しています。しかも、かわいい絵柄でありながらアクション場面での迫力もあり、「歌唱」シーンも劇場で堪能する価値のあるクオリティーで、「映画館で見たくなる」作品でもあるのです。 前述した「怖さ」も、筆者個人としてはしつこく描写されるものではなく、「悲しいと同時にゾッとさせる」「でも希望もあるかも」と思わせる塩梅で万人向けであると思えましたし、むしろお子さんにこそ見てほしいと願える内容でした。
特に、物語上で主人公のちいかわが「仲裁」に近い立場に置かれ、「これで本当に正しいのかな」と考えることが、分断や断絶が多くなり、何かを一方的に糾弾してしまうことが多い今では、とても尊く映ります。怖い描写を踏まえて、観客側にもまた「考える」ことを促すということが、この『映画ちいかわ』でもっとも素晴らしいところとさえ思えたのです。
細かい伏線もあり「もう一度見て確かめたくなる」部分もあり、見た人同士でラストも含めた考察を話し合いたくなるでしょう。何より、自分の意見を誰かと共有したいがために、「すでに見た人も誰かを連れてもう一度見たくなる」という特徴があると言えます。
総じて、この『映画ちいかわ』の「怖さ」は、「親御さんが子どもを連れて見るのを控える」理由になる一方で、「作品が高く評価される理由」でもあり、「もう一度(誰かを連れて)見たくなる」訴求力に密接につながっているため、むしろさらなる盛り上がりとなる可能性も高いでしょう。



