2:染谷将太だからこその「サイコパスであることに苦悩する」役の説得力
本作の説得力と迫力を倍増させているのは、主演・染谷将太というキャスティングです。
染谷将太は幅広い役柄を演じていたこともあり、今回は善良にも悪魔のようにも、聖人君子のようであり独裁者のようにも、浮世離れしているようで人間くさくも見えるという、多面性をまざまざと感じさせます。原作小説では「35歳で若いからこそ患者の信頼を得られていないのではないか」という「年齢コンプレックス」も示されており、実年齢としてもほぼピッタリでした。
俳優としての試みが、自身の使命を信じて全うしようと尽力している、でも実は悩みや苦悩を隠そうともしているのではないか、と想像させる役とシンクロしているからこそ、より説得力を増していると言えるでしょう。
なお、原作小説は医師の手記という体裁で進むため、まるで実際に記されたもののように錯覚をする構造があり、今回の映像化においては最初は原作に近いフェイクドキュメンタリー形式も検討されたそうです。しかし、𠮷田光希監督は「より多くの観客と物語を共有するため、今回は俳優の存在から映画を立ち上げる方法を選んだ」そうです。
3:「実際にあること」「身近なこと」が反映されている
本作は重ねて言うようにフィクションですが、実は何重にも「実際にあること」が反映されています。
さらに、手術シーンでは染谷将太と執刀医役の吉岡睦雄以外は全員、医療監修の方など本職の方が、手術開始前のタイムアウトや器械出しなどを本番さながらに演じていたとのこと。さらに、それぞれが医療倫理的な疑問に答えたり、アイデアも出していたのだとか。
クリニックのスタッフ役には、介護資格や看護師資格、理学療法士、介護経験のある俳優も積極的に探したそうで、それは𠮷田光希監督の「実際の現場を知っている人にも裏切りのないように」「小さな所作の違和感ひとつで、観ている人の気持ちが作品から離れてしまわないように」の意向もあったのだそうです。
そうした発想の発端、映画の構造や取り組みだけでなく、劇中の問題提起そのものも「現実にあること」です。
例えば、「どんな治療法にもデメリットはある」「家族や親しい人の治療法の受け入れ方は患者本人とは異なる」からこそのインフォームドコンセントは重要だと改めて気付かされますし、終盤で医師が患者の家族から聞かされる衝撃的な告白は「実際にあり得る」「自分もこう言ってしまうのかも」と多くの人がゾッとさせられるでしょう。
厚生労働省のデータによると、2055年に日本では75歳以上の高齢者が人口の25%を超えるそうです。原作小説が書かれたのは20年以上も前のことですが、高齢化社会の問題は2026年の今ではより顕在化していますし、何より介護は多くの人が向き合う、やはり身近な事柄です。
だからこそ、本作で描かれた恐ろしい出来事を絵空事と捉えず、あり得る未来の問題として、見据えていただきたいです。
(※吉田光希監督の「吉」は「つちよし」が正式表記です)
この記事の執筆者:
ヒナタカ
映画 ガイド
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
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