書籍『教師の自腹』(福嶋尚子・栁澤靖明・古殿真大 著)が行った調査によると、教職員の4人中3人が何らかの自腹を経験しており、授業関連では6割近く、部活動や旅費でも高い割合で自己負担が発生している。
では、なぜ教師は自腹を切るのだろうか。著者らが実施した調査から、教師の仕事観や学校環境と自腹の間に興味深い関係があることが判明した。
善意と熱意に支えられた教育現場で、なぜ教師の個人負担が生まれてしまうのか。本書を一部抜粋・編集し、その複雑なメカニズムを、データとともに見ていこう。
※当調査は2022年度の1年間での自腹を調査したもの
授業に関わる自腹をしやすい小学校教員
小学校教員における授業に関わる自腹の発生率は高い(466人中304人、65.2%)。では、どんな仕事観をもつ人が授業に関わる自腹をしているのか。
じつは「教育活動をより充実させたい」かどうかについて「あてはまらない」と回答した小学校正規教員の授業に関わる自腹の発生率は52.9%(70人中37人)にとどまるのに対し、「あてはまる」と回答した人の発生率は68.2%(292人中199人)にも上る。
「自分自身が成長したい」についても、「あてはまらない」と回答している人の発生率が50.0%(70人中35人)であるのに対し、「あてはまる」と回答した人は68.8%(292人中201人)になっている。
つまり、小学校の正規教員の場合、授業に関わる自腹と教育活動に関わる研鑽・修養がつながっており、よりよい教育活動を子どもたちに提供するためであれば自腹も許容するという捉え方があるのではないだろうか。許容というより積極的に自腹を切っているともいえる。
そこで、「とてもあてはまる」と「少しあてはまる」と回答した人の間にある違いに着目してみる。
「少しあてはまる」と回答した人のうち自腹をしていた人は56.0%(166人中93人)だったのに対し、「とてもあてはまる」と回答した人の場合は73.5%(162人中119人)だった。
職場の人間関係を大切にしたいと思っているのは多くの正規教員に共通しているが、その思いがより強い人ほど授業に関わる自腹をしているのだ。
たとえば事務職員に対して公費での購入を要求すること自体が職場の人間関係を悪くすると捉えられている可能性があるが、もしそうならばこうした捉え方自体にマネジメント面の弱さが表れているともいえる。
本来なら、要求行為、それに対応する購入の決定や却下の行為のいずれもマネジメントの範囲内であって、人間関係とは無関係に考えられるべきだ。
授業に関わる自腹は、一つひとつの経緯をみてみると「時間がない」「手続きが煩雑」などがきっかけで行われているが、その背景には、教師としての使命感や向上心がある。他方で、職場での人間関係を重視する考え方が自腹行為を促している側面もある。



