“30万円の自腹”を強いられた校長の告白。「わたしはどうすれば……」未納金問題の深刻な実態

教壇に立つ教員だけではなく、校長や教頭といった公立学校の管理職層も深刻な自腹問題を抱えている。管理職特有の自腹の実態を見ていこう。(画像出典:PIXTA)

管理職も自腹を切っている?(画像出典:PIXTA)
管理職特有の自腹とは?(画像出典:PIXTA)
公立学校の教職員が自分のお金で教育活動を支えている「教師の自腹」問題。これまで一般教員の実態に注目が集まることが多かったものの、実は校長や教頭といった管理職層も深刻な自腹を強いられていることが分かっている。

昇進によって職責が重くなるにつれ、性質や金額も変化していく“管理職特有の自腹の実態”とは、どのようなものなのか。書籍『教師の自腹』(福嶋尚子・栁澤靖明・古殿真大 著)から一部抜粋・編集し、紹介しよう。

管理職層に多い「自腹」の中身とは

小・中学校合わせた校長ら管理職層の自腹発生率は、旅費に関わるものでは45.2%(104人中47人)、弁償・代償のための自腹が15.4%(104人中16人)であって、小学校・中学校という学校種による傾向の違いはほぼない。

旅費は正規教員と同水準ではあるが、非正規教員や事務職員よりは発生率が高く、弁償・代償のほうではどの職種よりも発生率が高い。

なぜこのようなことが起こるのか。校長・教頭・副校長・主幹教諭・指導教諭を一くくりで論じることは難しいため、ここでは校長を例にとって考えてみたい。

校長の1日の業務は、学校関係者以外はもちろん、たとえ学校関係者であってもなかなかイメージが難しい。

旅費に関わる自腹が正規教員と発生率が同水準であることから、出張の回数は比較的多い。

ある高等学校の校長の1日の行動を丹念な記録で明らかにした研究によれば、出張に伴う会合への「参加・列席」は5.4%(年間15万7715分中8530分)、出張先への「移動」は10.0%(年間1万5740分)、関係者との「会食」は3.4%(年間5290分)だという(※1)。

いわば全体の2割ほどが校外への出張を占めているということであり、これに基づけば、学校ごとに配当された旅費が、年度末に足りなくなり、自腹になることが増えるのではないだろうか。

もう少し詳しくみてみると、本調査では、正規教員の旅費に関わる自腹は家庭訪問等の近距離のものが多かったが、校長ら管理職層の旅費に関わる自腹では、宿泊を伴う遠方への出張やタクシーを利用した場合、そして出席しなければいけない会合に付属している会食などがみられた。

全国大会などは都道府県からの参加人数を割り当てられていたり、輪番制であったりして、意に反した参加が強制されることもある。

そのため、旅費が足りないことやいいだしづらいこともあるかもしれない。つまり、正規教員の旅費に関わる自腹と、校長ら管理職層の旅費に関わるそれとでは、少し性格が異なるといえ、発生率は同水準であるが、自腹額については管理職層のほうが高額になりがちだろう。

他方で、弁償・代償のための自腹が他の職層よりも管理職層で多いのはなぜだろうか。

保護者の徴収金未納分を肩代わり

校長などが自ら関わった事案について弁償や代償をしている例も含まれつつも、これとは別に部下である教職員の自腹を肩代わりした事案が自腹の発生率を押し上げているとみられる。

担任や担当者であるからといって保護者の未納分や破損した備品の修繕費用を負担させるのを忍びないと思う校長らが、これを代わりに負担しているパターンではないだろうか。ヒアリングしたなかでは、管理職手当をもらっている責務だと語る校長もいた。

さらにもう一つあり得る自腹のパターンは、学校での保護者負担金の管理の側面に属する。

多くの小・中学校では教材費や修学旅行の費用はもちろん、給食費についても保護者から集金したお金を校長個人名義の銀行口座で管理していることが多い。この方式を私会計(しかいけい)という。

この私会計による徴収金の管理方式を採っていると、保護者の未納分があっても、校長個人名義の銀行口座から教材代や修学旅行の代金、給食の食材料費を支出することになる。

その結果、年度末まで未納が続くと、残高不足の状態となり、支払いができなくなる。未納を回収するか自腹を切るかという選択を迫られる。

このようにみてくると、校長ら管理職層になっても、職務の変化と合わせて自腹の種類は変わりながら自腹はなくならないままであることが推測できる。しかも校長ら管理職層はその行動範囲が広く、所掌する職分が広くなる分自腹の金額も上がりやすいのだろう。

一般の教員にとってだけでなく、管理職層にとっても自腹は切実なものであることがわかる。
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