“30万円の自腹”を強いられた校長の告白。「わたしはどうすれば……」未納金問題の深刻な実態

教壇に立つ教員だけではなく、校長や教頭といった公立学校の管理職層も深刻な自腹問題を抱えている。管理職特有の自腹の実態を見ていこう。(画像出典:PIXTA)

【校長の自腹】管理職という立場と自腹

「とりあえず、わたしが立て替えます」。そうするしか選択肢がなかった。

結果としては一時的かもしれないけど、戻ってくる保証のない自腹は30万円にも及んだんです――。A校長は、息を荒らげながら当時を振り返ってくれた。

校長としては初めての着任校であった。その高額自腹を切ったB校に着任して1年目の年度末、職員室では補助教材費の決算処理が進んでいた。

1・2年は修了式まで、3年はそれより前の卒業式までに決算を保護者に示す必要がある。

A校長が自腹を切ることになったのは、3年の未納分を補填するためだった。
 
A校長は続ける。

「その学年は未納と真剣に向き合わず、見てみぬふりをしていたんです。その結果がこれですよ」

どうやら、その学年は1年のときも2年のときも〈未納金と向き合わず〉〈集金した残金も返金せず〉に3年間を終えようとしていたようだ。

当然、残金を繰り越すだけでなく、〈未納金〉も繰り越されている状態にあり、それは大きく膨れ上がっていた。

収拾がつかなくなったのは、卒業式の前週……。

しかも該当学年からではなく、一緒にB校へ着任した事務職員からの報告であった。その事務職員曰(いわ)く、年末辺りから学年主任と未納情報を共有しながら、回収の必要性と逼迫(ひっぱく)性を訴えていたようだが、学年職員にはその危機的状況が伝わっていなかったようであった。

迫る卒業(期限)に向けて、どうしていくべきかという手段を考えていた矢先のこと。
 
A校長の顔は険しくなる。

「とりあえず、学年主任を呼び出し、状況を確認したんです。そしたら、なんとわたし(校長)の決裁を経ずに保護者へ決算書を配付してしまっていたことが発覚した。それだけでも問題なのに、未納金が納入された状態=ある意味理想(想像)の決算書を通知していたのです」

それには各家庭への返金額も書かれているし、振込日もある。当然、未納状態ではそれを実行できない。決算書の訂正を配付しようとも考えたが、卒業式も迫っていた。

また、完納している家庭への返金を待たせるわけにもいかないし、卒業後に口座を解約されてしまっては返金手続きも困難になると考えた。

結果、キャッシュカード片手に30万円を引き出した。後日談だが、学年職員総出による未納回収で、十数万円は戻ってきたが、残りはうやむや……。

「こんなことになってしまうなんて。わたしはあのとき、どう対応していたらよかったんでしょうか……」

A校長はうつむいた。
教師の自腹
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※当調査は2022年度の1年間での自腹を調査したもの


※1:森(2023)の論文は著者自身の記録に基づくもので、分析対象は一人、学校段階は高校であるため、本書が対象としている公立小・中学校の校長の働き方として一般化することは困難であることは申し添えておく。

<参考引用文献>森均「高等学校の校長の働き方について――1年間にわたる『校長の行動日誌』の集計結果を示したアンケート結果をもとに」「摂南大学教育学研究』19号、2023年、37-48頁。

【この書籍の執筆者】※肩書は本書執筆当時
福嶋尚子 プロフィール
千葉工業大学工学部教育センター准教授/「隠れ教育費」研究室チーフアナリスト。新潟大学教育人間科学部(当時)で教育行政学、教育法学、教育政策学を学び、修士課程を経て、2011年東京大学大学院教育学研究科の博士課程に進学。2015年度より千葉工業大学にて教職課程に助教として勤務し、2021年より准教授(現職)、教育行政学を担当。

栁澤靖明 プロフィール
埼玉県川口市立青木中学校事務主幹/「隠れ教育費」研究室チーフディレクター。県内の小・中学校に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・就学支援制度。

古殿真大 プロフィール
名古屋大学大学院教育発達科学研究科博士後期課程院生/日本学術振興会特別研究員(DC2)。筑波大学人間学群教育学類で教育社会学を学び、名古屋大学大学院教育発達科学研究科の博士課程に進学。専門は教育社会学、障害児教育。教育に医療の知識がもち込まれることに関心を寄せ、とりわけ情緒障害に着目し、歴史的な観点から研究をしている。

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