なぜ公務員である教師が高額な自腹を切ることになるのか。いったい何にお金を使っているのか。本書を一部抜粋・編集し、その驚くべき内訳を見ていこう。
※当調査は2022年度の1年間での自腹を調査したもの
最高額2500万円。高額自腹の中身とは
今回の調査で、これまでの教職員人生における自腹のトータル額、その最高は「2500万円」(中学校・正規教員、男性)だった。他にも、「1000万円」の人は1名(中学校・管理職層、男性)、「500万円」の人は学校種、職種、性別を超えて9名だった。一番高額だった方を仮にA先生としよう。「2500万円」の自腹の内訳や経緯がどのようなものか、A先生の回答だけからは十分に明らかにできないので、他の高額自腹となっている回答も併せつつ、「高額自腹の教員は、何に自腹を切っているのか」を明らかにしていきたい。
まず、A先生は2022年度の自腹の事例でどんなことを挙げているか。
授業に関わる自腹では「デッキ」(1万円以上5万円未満)、部活動では集団演技や集団演奏以外の文化部を担当して、「楽器」(5万円以上)を購入しているようだ。旅費では「タクシー」が必要となった場面でその費用を負担している(500円以上1000円未満)。
確認しておかなければいけないのは、これはあくまで一つの事例に過ぎず(※1)、2022年度で一番高い自腹とも限らないし、一番頻度が高い自腹とも限らないことだ。
これ以外にも事例として挙げられていない、A先生自身が思い出せない自腹があって当然である。それらをすべてくくったときに、「これまでにおおよそ2500万円を負担している」とA先生自身が思ったので、この回答になったと考えられる。
その他の高額自腹といえるような回答内容をみていくと、授業に関わる自腹でもレーザーポインターや高性能タブレット、CDラジオなどのデジタル機器、子ども一人ひとりに対応した教材や手作りの教材などを準備する際の費用、そして図書や研修関係費用の自腹は半数近くの高額自腹の回答者が挙げていた。
「パソコンもCDも買ってきた。パソコンは個人でも使うがほとんどが、仕事用だった。今まで7台以上買い替えている」(小学校・非正規教員、女性)という具体的な自由記述もあったが、こうした例はきっとこの回答者だけではないだろう。よりよい授業や専門性の向上をめざしていけばいくほど、経済的負担がかかるのだ。
車両費、宿泊費、研修参加費……多岐にわたる自腹
部活動に関わる自腹では、挙げられている事例にはあまり共通項がみられず、部活動や練習のための本人の衣類・用具、部活動で部員らが使用する物品、練習試合や大会への交通費、審判の資格取得のための費用、部員にふるまう飲食物の購入費など多岐にわたっている。回答のなかでは挙がってこなかったが、X(旧Twitter)上の「#教師のバトン」投稿や筆者が聞いたなかでは、部活動の引率や荷物の運搬のため「ワンボックスカー」を買う、引率のために「レンタカーを借りたら」と促される、業務中にぶつけられたりした場合も含め車の購入・維持・メンテナンスなどの全て、引率のための「大型免許取得費」などの自腹経験が語られている。
それこそ、車を購入し維持をしていくことを考えればそれだけで数百万円にかけることの台数分の自腹が発生することになる。
旅費に関わる自腹も、その事例は多岐に上る。家庭訪問や研修、部活動のための交通費などはもちろんだが、「遠距離通学生徒が通学用バスに乗れないときの送り」や「病気の生徒を家まで送り届ける」など校区が広い場合や突発的な事態で自家用自動車(ガソリン代や駐車場代)を使っている事例が目についた(※2) 。
特に校区内など距離が近いとそもそも旅費が支給されない仕組みのところが多いために、「不登校生徒の家庭への訪問」「問題行動があった児童への放課後の指導」など日常的あるいは非日常的な家庭訪問や指導における交通費や駐車場代などがすべて自腹となっていることが高額化につながっているようだ。
それに加え、遠方への研修や会議への参加のための交通費・宿泊費・参加費が多い人、修学旅行やその下見などの機会が多く、そこで自腹が発生する人は、旅費だけでもかなり多額の自腹額になる。



