調理実習費で20万円の立替、弁償・代償のための自腹も
弁償・代償のための自腹は高額自腹者でも2022年度の事例は少数だったが、「生徒同士のトラブルによる物品破損弁償」や徴収金未納者分の代償などが挙げられている。今回の調査では2022年度間の弁償・代償のための自腹発生率自体はそれほど高いものではなかったが、SNS上ではかなり高額な事例が報告されている。
「調理実習費」で20万円立替、徴収金未納4万円分を立替なども十分高額だが、やはりプールの漏水について担当教職員に数百万円の弁償を教育委員会に求められたような事例は自腹額の桁が違う(※3) 。
弁償・代償のための自腹は浮き彫りになりにくいということもあるだろう。しかし、何らかの理由で経済的損失が発生すれば、それを自ら補填している教職員が実際にいるようだ。
以上のように高額自腹の例を並べてみると、A先生の「2500万円」という額が決してあり得ないものではないということがわかる。
日常的に生じる立替払い、突発的に負担せざるを得なかった費用、通勤や給食などでも日々生じるお金に加え、デジタル機器だけでなく車や機材など大物物品の購入を始めれば自腹額は増え続けるのだ。 日々の授業準備、部活動指導、突発的な生徒対応──。教育現場で「必要だから」「子どもたちのために」と積み重ねられた個人負担が、いつの間にか一般的な年収の何倍もの額に膨らんでいくという現実がある。
書籍『教師の自腹』では自腹問題の解決に向けた学校運営の在り方についても詳しく論じられている。より詳しく知りたい方は、ぜひ書籍をご覧いただきたい。 ※1:質問紙調査では「Q10.昨年度(2022年度)におけるあなたの『自腹』についてお聞きします。あなたが昨年度に『自腹』をしたものを以下の選択肢からすべて選んでください。(いくつでも)1.授業 2.部活動 3.旅費 4.弁償・代償 5.その他 6.『自腹』はなかった」と質問し、2022年度の自腹経験の有無をカテゴリ別に答えてもらった。この質問で「自腹の経験あり」と答えた人については、その具体例(名目)を挙げてもらった上で「〔前問〕で答えた◯◯に関わる『自腹』のおおよその金額を教えてください「〔前問〕で答えた◯◯に関わる『自腹』の経緯を教えてください」と質問し、2022年度の自腹の事例を一つ思い出して答えてもらった。
※2:本来は教職員の自家用自動車に子どもを乗車させること自体が服務上、大きな問題と指摘され得る。
※3:NHK「川崎 小学校プールの水出しっぱなし 教員へ賠償請求どこまで?」(2023年9月22日)。数十万円から数百万円に及ぶ弁償が行われた事例が示されている。
【この書籍の執筆者】※肩書は本書執筆当時
福嶋尚子 プロフィール
千葉工業大学工学部教育センター准教授/「隠れ教育費」研究室チーフアナリスト。新潟大学教育人間科学部(当時)で教育行政学、教育法学、教育政策学を学び、修士課程を経て、2011年東京大学大学院教育学研究科の博士課程に進学。2015年度より千葉工業大学にて教職課程に助教として勤務し、2021年より准教授(現職)、教育行政学を担当。
栁澤靖明 プロフィール
埼玉県川口市立青木中学校事務主幹/「隠れ教育費」研究室チーフディレクター。県内の小・中学校に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・就学支援制度。
古殿真大 プロフィール
名古屋大学大学院教育発達科学研究科博士後期課程院生/日本学術振興会特別研究員(DC2)。筑波大学人間学群教育学類で教育社会学を学び、名古屋大学大学院教育発達科学研究科の博士課程に進学。専門は教育社会学、障害児教育。教育に医療の知識がもち込まれることに関心を寄せ、とりわけ情緒障害に着目し、歴史的な観点から研究をしている。



