「お客さまは保護者さま」意識が教師を追い詰める。高所得地域の学校で“教師の自腹”が増える理由

なぜ公立学校の教師は自腹を切るのか。調査で明らかになったのは、教育への熱意や使命感といった善意が、皮肉にも自腹を促進している実態だ。その複雑なメカニズムを見ていこう。(画像出典:PIXTA)

高所得地域の中学校教員ほど自腹をしやすい

調査前から想像がついていたことではあるが、中学校での部活動に関わる自腹は小学校に比べて発生率が高い。

そもそも小学校での部活動はそれほど活発ではないことから、小学校正規教員では7.5%(362人中27人)であるところ、中学校正規教員では45.6%(362人中165人)と、中学校正規教員の自腹発生率は小学校正規教員の約5倍に及ぶ。

そこで、どんな中学校だと部活動に関わる正規教員の自腹が生じるのか、調査から明らかになったことを確認していこう。

まずは、「経済的に豊かな家庭が多い」に「あてはまる」と答える教員ほど、部活動に関わる自腹をしている。自身の学校が「経済的に豊かな家庭が多い」学校に「あてはまる」と回答した教員の56.7%(127人中72人)が部活動に関わる自腹をしているのに対し、「あてはまらない」と回答した教員の自腹発生率は39.6%(235人中93人)にとどまっている。
子どもの家庭環境と部活動に関わる自腹
子どもの家庭環境と部活動に関わる自腹(画像出典:『教師の自腹』)
部活動はそもそも部により、学校により、必要な物品や活動の日数・時間、校外での練習試合・大会・コンクールの頻度などが異なり、これに参加する子どもの保護者が負う経済的負担も同様に、部により、学校により大きく異なる。

団体競技・団体種目のある部であれば、すべての部員に経済的負担が増えるし、強豪ともなれば遠征や大会参加も頻回となり、週末ごとに遠方に行くこともある。

こうした経済的負担に耐えられる家庭が多くなければ、その部は継続的に活動をすることすらままならないだろう。そのため、「経済的に豊かな家庭が多い」ということは部活動が活発になる土壌があるということである。

そうした中学校においては、顧問をする教員の指導負担が高まり、公費負担や保護者負担されない部分が教職員の自腹によって賄われるようになる。

それが、顧問自身が使用する道具や衣類、遠征や大会出場のための交通費、審判資格を得るための費用などで、経済的に豊かな家庭が多く部活動が盛んであれば、教員の部活動に関わる自腹が増えるのは明らかだ。

保護者に求められると活動を縮小しづらかったり、より活動を活発化する教員の評価が高まったりする状況も想像でき、より自腹が増えていく可能性もありそうだ。

教職員の団結力が高いほど自腹を切る

また、勤務校の「教職員の団結力が高い」に「あてはまらない」と回答した教員ほど、部活動に関わる自腹をしている。

自身の学校が「教職員の団結力が高い」学校に「あてはまる」と回答した教員41.4%(232人中96人)が部活動に関わる自腹をしているのに対し、「あてはまらない」と回答した教員の自腹発生率は53.1%(130人中69人)となっている。
教職員の団結力と部活動に関わる自腹
教職員の団結力と部活動に関わる自腹(画像出典:『教師の自腹』)
これはどういうことか。

教職員が団結せず個人主義的に行動している学校ほど、各部の活動の熱心さが異なり、顧問をする教員が時間的負担や経済的負担をどれほどにかけているかに互いに無頓着になっているのかもしれない。

あるいは教育課程や学校行事など教職員全体で取り組む物事についての連携が不十分な状態においては、学校財務そのものが成り立っておらず、その結果、各部の活動において教職員の自腹が発生しやすいともいえるだろう。

いずれにせよ、部活動や自腹が「その人個人のこと」という認識が強ければ、どれだけ熱心に部活動に取り組んでも、自腹をしていても、それを制止する、なだめる力は弱くなる。こうした認識が背景にあると思われる。

逆に、自腹をしてでも部活動を活性化させるべきと思っている人からすれば、それについてこない他の教職員は「団結力」が弱いとも捉えられるかもしれない。
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子ども思いの教師ほど自腹が多い?
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